ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・26話

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ギムレット

「ギムレットさん……その腕は!?」
 鉄格子のドアをくぐり抜け、脱獄する真最中の男の腕を見て、ボクは驚愕する。

「ああ、これかい。放射能だらけの地球じゃ、生身の身体を維持するのは難しくてな。持って行かれたのは、腕だけじゃ無ェぜ。身体のあちこちが、機械のギミックにスゲ変ってんだ」

 黒人の男は、恥じるどころか自慢げに、身体中の金属パーツを見せびらかした。

「今、地球に住んでる人たちも、癌になったりしてるんですか?」
 放射能に満ちた大気や、科学物質を含んだ黒い雨が、真っ黒な海に降り注ぐ今の地球では、人間の身体は癌(ガン)などの病気に蝕まれるのだろう。

「そりゃ、老人になるまで生きてるヤツァ、大概な。だがアンタの時代と違って、身体や脳まで移植できる時代だ。死ぬヤツも、少ねェケドよ」

 男に続き、ボクも牢の外へと出た。
辺りを見渡すと、同じように鉄格子で仕切られた牢が、幾つも連なっている。

「ボクたちの他にも、人が入っているんですね」
「ヤツらが、人だって言うんならな」
「え?」

 ギムレットさんに言われて、それぞれの牢獄を観察した。
中にいる人は殆どが老人で、目も虚ろで顔に生気が無い。

「ボクたちが脱獄してるっていうのに、誰1人として感心を示さないなんて……」
「ヤツらにとっては、どうだってイイコトだからな。行くぞ」
 虚無な人たちを残し、ボクたちは牢獄のある部屋を出た。

「さて、ここからが厄介だ。オレの身体に埋め込まれたコンピューターじゃ、ハッキングにも限度があってな。牛頭(ごず)刑務所の男性囚人棟だけでも、掌握できていないんだ」

「……てコトは、女性囚人棟もあるってコトですか?」
「ああ。刑務官のアーキテクターどもの詰める、中央制御センターを挟んで反対側だぜ。そこに誰か知り合いでも、捕まってるのかい」

「はい。地球では、黒乃って名乗ってますケド、火星のディー・コンセンテスの地球代表である……」

「ま、まさか、ミネルヴァが捕まってやがるのか!?」
 飄々(ひょうひょう)としていたギムレットさんが、いきなり語気を荒げる。

「え、ええ。実は今、火星はマーズが掌握してしまっていて、ディー・コンセンテスの何人かもマーズの陣営に加わってるんです。ですが……」

「ミネルヴァが、地球の意志に背いてマーズの軍門に降るハズが無ェ」
「その通りです。ミネルヴァさんはマーズ陣営の隙を突いて、地球に脱出して来たんです」

「そ、そうか……」
 黒人の大男は、暫(しばら)く押し黙ってしまう。

 通路には、ブリキみたいなアーキテクターの群れが、異変に気付き大挙して押し掛けていた。
その統制の取れた行動から、まだハッキングはされていないらしい。

「ギムレットさん。アイツら、襲って来ますよ。隠れるか、なにか対処しないと……」
 慌てて、壁に身を隠すボク。

「事情は、なんとなく解ったぜ。それに、ミネルヴァが地球に降りた理由もな」
 ギムレットさんが、腕のコンピューターを操作すると、アーキテクターたちが互いの火器で、同士討ちを始めた。

「ス、スゴい……」
 足元に転がった大量のアーキテクターのボディには、互いの火器が刻んだ弾痕の穴が開いている。

「ボヤっとしてねェで、行くぞ」
「行くって……何処へですか!?」
 大きな背中を、追い駆けるしかないボク。

「決まってんだろ。このまま中央制御センターに斬り込んで、女性囚人棟への突破口を開く!」
「ミネルヴァさんを、助けるってコトですね?」

「そうなるな。地球に降りて来て、ゲーの裁判を受けたんだろ?」
「はい。ボクが余計なコトを言ったから、ミネルヴァさんまで有罪に……」

「アンタが言った程度で、AIが刑の重さを変えるコトは有りえんさ。ミネルヴァは、火星のディー・コンセンテスの崩壊を、止められなかった。それだけで、国家反逆罪クラスの重罪と判断されるからよ」

 壁の向こうでは、無気力な老人に思えた男は、アーキテクターたちが落とした武器を両腕に抱え、襲い来る新手に銃弾をばら撒いていた。

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