ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第21話

f:id:eitihinomoto:20200806163558p:plain

教育の格差

 バーで酒を飲み過ぎて、寝てしまったボク。
酩酊(酩酊)した頭の中で、高校生の頃の思い出を夢に見ていた。

「なんだよ、ユークリッドって?」
「確か昔の、数学だか天文学者だかの名前だろ?」
 突如として飛び出した、『ユークリッド』という名前に、様々な反応を見せるクラスメイトたち。

 かく言うボクも興味があり、近くで行われている会話に聞き耳を立てる。

「これだよ、これ。『You Creator.Com』(ユー・クリエイター・ドットコム)」
 先の授業で、先生をボロクソに非難していた生徒が、誇らしげにスマホの画面を見せた。

「なる程、ユー・クリエイター・ドットコムを縮めて、ユークリッドなんだな」
「それがさっき言ってた、授業動画を無料で見られるアプリなのか?」

「そうだぜ。ここの動画を見て置けば、学校の授業なんか受けなくたって勉強ができるのさ」
 そんな都合の良いコトが、本当にあるのか……このときボクは、そう思った。

「ホントかよ。オレも、ダウンロードしてみるかな?」
「わたしも。流石に毎日自習って、あり得ないしね」
「だ、だよな。先生が職場放棄してるんだ。自分たちで何とかしないと……」

 ボクも、やっていた自習が手に付かなくなる。
正直、ユークリッドがどんなものかだけでも、確かめたかった。

「よ、学食でメシ食わねえか?」
 突然声がかかる。
聞き慣れた、友人の声だ。

「そうだな。そろそろ腹も減ったし、行くか」
 ボクと友人は、学食へと向かった。

「まあ、ここに来たところで、冷房が効いてる以外にメリットなんて無ぇケドな」
「確かにな。学食も閉鎖されて、既に一ヶ月か。働いていた人達は、どうしているんだろう」

「オイオイ。まずは、自分たちの心配をしようぜ」
 友人は、抱えて持ってきたアコースティックギターの弦を軽く鳴らす。

「こんな状況が、一体いつまで続く。いい加減、元に戻ってくれないものか」
「覆水(ふくすい)盆に返らずって言葉、知ってるか?」

「学校での教育が、無くなるなんてあり得ない。大体、民営化すると言っても、ちゃんとした受け皿が用意されているかも怪しいもんだ」
 ボクは、コンビニで買ったツナパンと、自販機のコーヒー牛乳を開けながら力説した。

「現在ですら親の収入の差で、学習塾に通える子供とそうで無い子供とで、学力に開きが出てる」
「大学出かどうかで、選べる職種も将来に獲得できる金も変るって話だから、問題ではあるな」

「それが義務教育まで廃止して、教育を完全に民営化したらどうなる。民間企業の目的は、営利だ」
「更に格差が広がると言いたいんだろうが、今だって私学は民営じゃないか。それに学校による偏差値だの、Fラン大だの、格差なんてそこら中にあるさ」

「教育民営化法案が施行されてしまえば、大勢の人がリストラされる……」
「それが狙いだからな。公務員のままじゃリストラなんて出来ねえから、一旦公務員じゃ無くしてからクビにするんだろ?」

「そんなコトがされてしまったら、本当に日本の教育は……」
「日本はこれまで、色々な組織が民営化されて来た。鉄道、郵政、電話……それで今、オレたちが何か困っているか?」

「それは教育民営化法案を、推進したがってる政治家の論理だろう」
「お前のは、反対派の言い訳だな」
 熱血教師に憧れ、教師になるコトを志していたボクは、そうならざるを得なかった。

「オレに言っても、何の解決にもならんぞ」
「解っているさ……」

「そういやさっき、教室で話題になっていたアプリを入れてみたんだがよ」
 すると、友人がカップ麵をすすりながら言った。

「あの、『ユークリッド』とか言うヤツか?」
「お前は相変わらず、ガラケーなんだろ。ホレ、これだ」
 IT音痴のボクを見越してか、友人は自分のスマホをボクに見せる。

「一体どれ程の授業が、見られるって言うんだ?」
 ボクは身を乗り出して、スマホの画面を覗き込んだ。

『始めまして、鳴丘 胡陽と言います。今日は化学の授業を、みんなとやって行きたいと思います』
 その時の動画の、グラマラスな教師の名を、ボクは覚えていたワケじゃない。

 むしろ、その完成された授業内容に、ボクは驚きを隠せなかった。

 

 前へ   目次   次へ