金刺 導誉(かなさし どうよ)
「オレたちを、動画のコンテンツにだって?」
紅華さんが、長い脚を組みなおしながら言った。
「でも、どうなんだ。オレさまたち、大して強くも無ければメンバーだって足りてねーし」
「プロリーグ入りは目指していますが、かなり遠い作戦目標であります」
ボクも、黒浪さんや杜都さんの意見に同調し首を縦に振る。
「まあこっちも状況は同じだよ。ウチも、他の会社のアピール動画は何本も編集して来たが、自分たちが主体となる企画は始めてなんだ」
「なる程。確かにデッドエンド・ボーイズには、話題性はありますからね、佐藤さん」
「少し前まで敵だった、オメーが言うか」
「部外者だったからこそ、見えるモノだってあるのですよ、紅華くん」
「一体、何が見えるってんだ、柴芭。女のパンツでも見えんのか?」
「相変わらずですね、キミは。デッドエンド・ボーイズは、日本サッカー界の新星、倉崎 世叛の立ち上げたチームだ。これだけでも、かなりの話題性がありますよ」
「そんなに話題になってる感じも、しね~が?」
「だからこそ、ウチが目を付けたのですよ、紅華くん」
佐藤さんが、ニコッと笑った。
「先行投資とか、青田買いってヤツか」
「ま、まあ、いずれマスコミに知られるコトになれば、話題になる可能性は大いに有りますからね」
「つっても、まだ人数も揃ってね~ぞ」
「オレさまとピンク頭、キャプテンに杜都、一馬に柴芭でまだ6人じゃんか」
「彼が居ますよ」
「ふえ、彼って?」
「もちろん、金刺 導誉くんですよ」
佐藤さんは、金髪ドレッドヘアのサーファーを見た。
「え。コイツ、サーファーだろ。サッカー出来るのか?」
「お前こそ、態度いかいな。ワイをバカにしとんのか。サッカーくれー、出きゃんワケなかろう」
「いかい……って、なんだ?」
「なッ、いかいは……その、いかついっちゅーこっちゃ」
黒浪さんの純粋な質問に、顔を真っ赤にして答える金刺さん。
「お前、どこ出身だ。関西弁みてーな感じに聞こえるが?」
「ワ、ワイか。ワイは一応は、滋賀出身や」
照れ隠しなのか、佐藤さんの注文したタンドリーチキンにしゃぶり付く。
「せやケド、ガキん頃から関西圏をたらいまわしにされてもうてな。自分でもどこの言葉喋ってんのか、よう解からんようになってもうたんや」
「へー。親の都合かなにかか?」
「まあ、親っちゃ親の都合やわな」
「あん?」
「イヤァ、実は彼は、大きな寺の跡取りみたいでしてね」
「だから、坊さんみたいな名前してんのか」
確かに、金刺 導誉って名前、偉いお坊さんっぽい。
「まあ本人は、跡を継ぐ気はまったく 無いようですが……」
「あんっな堅ッ苦しいモン、嫌に決もうとるわ。修行とか言って、山ん中走り周んねんで」
「坊さんって、山ん中走るのか?」
「神道……あるいは、修験道辺りか?」
「まあ、そう言うこっちゃ」
雪峰さんの予想は、的中した。
流石は秀才、頭イイ。
「そんなに厳しいモンなのか、キャプテン?」
「ウム。聞いた話では、山の尾根伝いに走り回ったり、高い崖から半身をせり出して功徳を高めたりと、かなりの荒行な様だな」
「お陰で、サーフィンに必須なバランス感覚や下半身の強さは、自然と身に付いてもーたがな」
「ふむう。下半身強化のための、高地での鍛錬でありますか」
「オレさまも、少し興味あるぜ」
「止めとき。そんな生半可なモンや無いで」
「それでお前、山での修行が嫌で、サーファーになったのか?」
「せやで。山なんて、マジで何も無いかんな」
「それがどうして、フットサルの大会に出てたんだ?」
「そ、それは色々と深い事情が……」
紅華さんの問いかけに、慌てて割り込む佐藤さん。
「事情なんてあらヘンやろ。ワイが勝手に、エントリーしたんや」
「マジでか。それで、よく付き合う気になりましたね」
「アハハ……そうだね」
「ワイは騙されて入ったんや、とーぜんやで」
「イヤイヤ、お前が勝手に勘違いしただけだろ」
「な、なんやとォ!」
「まあまあ。幸いウチには、サッカー経験者が何人か居たしね」
「それに佐藤さんも、いい歳や。身体も動かさんと、そこのオッサンみたいになってまうで」
金刺さんは、昼間からビールを飲みまくるメタボ親父を指差した。
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