ドリブラーの勘違い
「ボールをスティール(盗む)する技術が高いからって、ヘッドコーチになれんのか?」
紅華さんが怪訝(けげん)そうに、セルディオスさんのタプタプした腹を見ている。
「夏場にサッカーやるの危険だケド、サッカー知らない子供に教える、問題無いね」
「オレがその、子供と言いたそうだな?」
「あなたたち全員、子供ね。まだまだサッカーの何たるか、わかてないね」
「そりゃどうも」
説明中のセルディオスさんの前を、ふらりと通り過ぎる紅華さん。
「こんな芸当が出来たところで、なんだってんだ」
「あ……」
セルディオスさんの足元にあったボールは、再び紅華さんがリフティングしていた。
「盗む、重要なスキルね」
「セルディオスさん、それだけだと犯罪を助長してますよ」
「オーそうね。ボール盗むのがスバラシイね」
「ウム、確かに相手のボールを奪う技術は、サッカーに置いて大切だな」
「まあ解からんくも無いケドさ。お前やキャプテンはそ~ゆ~の得意なんだろうが、オレさまたちドリブラーは苦手なんだよな」
「それ勘違いね、クロ」
「な、なんでオレさまだけ、クロ!?」
「たった今、紅華がわたしからボール奪たね」
「アン、そっちが得意げに演説していて、隙だらけだったからな」
「相手の隙突く、ドリブラーにとって重要なスキルね」
「そりゃ、攻撃の時の話だろ」
「守備でも使えるね。あなたたちドリブラー、守備苦手は思い込みね」
「ウ~ン、確かにピンク頭はそうなんだろうがよ。オレさまみたいなスピードスタータイプは、やっぱ守備苦手なんじゃね?」
「タブン、あなたより速くボールに追いつけるディフェンダー、殆どいないね」
「ま、まあな。そりゃそうか」
「でも問題、追いついた後ね。ゴールと反対側向いてると、スピードが使えないよ」
「オ、オレさま、スピードに乗らないと、キープとか苦手だかんな」
「問題はあるまい。後ろに返せばいい」
「アッ、そうじゃんか。大会でもやってたよな」
「雪峰、言う通りね。ボールに追いつく走ってる時、ボール預ける味方見つけておくね」
「それをやってくれると、ボランチとしても助かりますからね」
「ボールを預けたら、相手の裏に走ればいいのか?」
「その通りね。あなたのスピード、脅威増すね」
「ウン、なんかオレさま、解かった気がする」
「スピードタイプのドリブラーも、守備苦手は勘違いね。日本のドリブラー、勘違いのまま続けてる、とてもとても多いね。モタイナ~イ」
「セルディオスさんって、日系ブラジル人なんだろ。ブラジルって、守備はザルなイメージあるケド」
「そうミエマスカ。でもブラジル、世界のサッカーで結果残してるね。現代サッカー、守備しないはもうキビシイね」
「ブラジルでは、お前みたいな守備をするヤツが、多いと言うコトだ」
「それって、どう言う意味だよ!」
「決まてるね。相手のボール、高い位置で狙うね。相手、とても嫌がるね。相手嫌がる、とてもとても気持ちイイね」
「うわ~、セルディオスさん、性格ワルゥ」
「でもまあ、ブラジルの守備ってそんな感じがするぜ。相手が嫌がる守備か。悪くねえかもな」
「性格最悪なピンク頭には、お似合いじゃん」
「うっせー、駄犬」
セルディオスさん、流石だなあ。
一瞬で守備が嫌いそうな2人を、納得させちゃった。
「でも日本のサッカー、問題はボランチとサイドバックにあるね。ボランチ、簡単抜かれ過ぎ、サイドバック、簡単ボール上げられ過ぎね」
「そこは反省しなければな。決勝じゃオレたちは、相手の死神を止められなかった」
「そうだな、余りに簡単に、中央突破をされてしまった」
雪峰さんと杜都さんが反省してるけど、ゴール決められたのボクなんだよね。
「悔しい気持ち大事ね。でも残念デスが、守備は簡単に上手くなりませ~ん。なので、当面はスリーボランチ使いマス」
「スリーボランチと言うと、自分と雪峰士官に、御剣隊員を起用するのでありますか?」
やった、ボクのポジションが出来た。
「ノォ、違うね」
そ、そんなァ!?
「3人目のボランチ、彼にやってもらいま~す」
セルディオスさんは、誰も居ない芝生を見た。
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