マンガとラノベでは情報の伝え方が異なる
漫画を描いていたボクが、ラノベを書いてみて最初に感じたのは……。
『マンガは1コマに色々な情報を入れられるのに対し、ラノベは書いたコトしか伝わらない』
……と言うコトだった。
マンガであれば一つのコマに、キャラも背景も、効果線や書き文字だって入れられた。
当然台詞も入るし、吹き出しに向きを付ければ、誰が喋っているのかも解る。
キャラクターを笑わせれば、そのキャラがどんな表情なのかは一目瞭然で、服や鎧を着ているキャラを描けば、その情報すら伝わった。
スピード線やトーン、書き文字などで、雰囲気や迫力まで加えられる。
これらの情報を、1コマに詰め込めるのは、マンガの強みだったのかな。
それに対し小説やラノベは、キャラがどんな表情で、どんな場所に居るのか、何を着ていて、どんな心境なのかは、それぞれ個別に書かないと伝わらない。
台詞が、誰が喋っている台詞なのかすら、解らなくなる時がある。
誰が言ったと一々書くのも、テンポが悪くなるし、誰が言っても問題が無さそうな台詞などは、あえて誰が言ったか書かないといった手法も、取られているようだ。
それがボクが、ラノベを書いてみて最初に感じたコトでした。
上手い作家は、書かないと伝わらないコトを利用している
だからと言って別に、マンガの方が小説よりも優れていると言うつもりはありません。
むしろ上手い作家は、『書かないと伝わらないコト』を、逆に利用していると思った。
例えば、かの有名なミステリーの女王であるアガサ・クリスティー。
彼女は、アクロイド殺人事件のポワロの登場シーンで、『書かないと伝わらないコト』を上手く利用してポワロを登場させている。
【重要】
アクロイド殺人事件が未読で、何の情報も知らずにこれから読みたいという方は、ブラウザバックをお願い致します。
……と言うコトで、ネタばれ含みます。
(ただし、事件の核心を書いているワケじゃなく、小ネタの部分なんだケド)
クリスティーの読者を驚かせる罠
・彼女はまず、こんな台詞を読者に提供します。
(注:要約のため、台詞は正確ではありません)
「隣に、可笑しな外国人が引っ越してきたらしい」
「名前は確か、ポロットとか言ったかな?」
「多分、フランス人じゃないかしら」
・不確定な情報を小出しにして、読者をミスリードする。
誰だ、そいつは……と。
・しばらく読者を泳がして置いた後、正体に繋がる情報を提供するのです。
「その外国人は、ずんぐりとしていて『立派な口ヒゲ』を生やしている」
それ、ポワロやん!
……と、なるんです。
(口ヒゲはポワロのトレードマークであり、シンボルでもあります)
この一連の流れを、もしマンガでやってしまっていたら?
最初の可笑しな外国人を、絵として描いた時点で、恐らくバレますよね。
描かなかったり、メチャクチャ小さく描いたりしない限り。
読者を驚かせるのが大好きな女性
またベルギー人であるポワロの名前は、ヨーロッパ人であっても正確に発音できない場合が多いらしく、『ポロット』と発音されてしまった。
ベルギーの公用語は、フランス語とオランダ語が主であって、フランス語を話すポワロは作中で、フランス人に間違われてしまったのです。
(過去作を読んでいれば解りますが、ポワロはフランス人に間違われるコトを酷く嫌います)
鋭い読者であれば、『多分、フランス人……』と言う件で気付けるよう、緻密な設計がなされているのも驚きですね。
アガサ・クリスティーと言う女性は、読者を驚かせるコトにやたらと熱心です。
それはアクロイド殺人事件の核心部分や、『オリエント急行殺人事件』、『そして誰もいなくなった』でも伺えます。
『謎』の部分に言及するのは、あえて避けましたが、彼女の残した名作の謎に関わる部分の多くは、『書かないと伝わらない』という小説ならではの特性を、逆に上手く利用したモノが多いです。
ちなみに、アクロイド殺人事件の核心部分を漫画で描こうとすると、『コナンの犯人(顔割れしてないとき)』が出来上がってしまうんですよね。
アレはアレで、人気も出てるし良いとは思うのですが。
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