夫人と姉妹
マドルが生前に関わった、連続殺人事件の容疑者たち。
重蔵の次男が武瑠(たける)、次男の妻が椿姫(つばき)、夫妻の長女が刹姫(さつき)、次女が捺姫(なつき)と判明した。
「武瑠氏は、事業が上手く行っていないのが原因で、ご帰宅する回数も減っていたそうですね?」
ステージのマドルが、挑発するように尋問(じんもん)する。
「ええ、そうですわ。他に原因があるのも、明白でしょうケド。夫が、外に女を作っていたなんて……」
椿姫(つばき)夫人は声だけだったが、眉間にシワを寄せている姿が、容易に思い浮かぶ。
「刹姫さんも、捺姫さんも、突然妹が現れたときには驚かれたでしょう?」
「オイ、マドル。もう少し、言いようってモンが……」
伯父の警部の、いつもより小さな声が注意した。
「わたし達は、あのコを妹だなんて認めてませんわ」
「そ、そうですわ。どうしてお爺さまが、あの娘に遺産を遺そうと考えたのか理解に苦しみます」
マドルの1人芝居を、ステージ裏から見ていたボク。
「サツキ、ナツキか。どんな外観なのかは判らないが、アロアとメロエを想像するな」
ボクはお芝居の中の2人に、自分の生徒であるグラマラスな双子姉妹を重ねていた。
「それはさて置き、3人は第2の殺人事件……サキカさんが殺された日の夜、この館に宿泊しておられたのですよね?」
「端正なお顔に似合わず、トゲのある言い方をされますわね」
「お褒めに預かり光栄です、椿姫(つばき)夫人」
「なあ、マドル。お前頼むから……」
「いいでしょう」
警部の取り繕(つくろ)いを、夫人の声が遮(さえぎ)る。
「わたくし達はあの夜、館の2階にある賓客室(ひんきゃくしつ)に居ました。食事を終えたわたくし達は、部屋でしばらく談笑した後、直ぐに寝てしまいましたわ」
「だいたいわたし達は、館にやって来て1週間になるのです」
「その間、事件なんて起きませんでしたわ」
「警察が、目を光らせてましたから。その1週間の間、お2人はサキカさんに対し酷く冷たく当たったと聞きましたが?」
「と、当然でしょう。亡くなったお爺さまの遺産が、どこの馬の骨とも判らない娘に、いきなり横取りされるのですよ!」
「お父さまの会社が危ないと解っていて、どうしてお爺さまはあんなご遺言を……」
「つまりお2人にも、サキカさんを殺す動機は十分にあると?」
挑発に乗った姉妹を、さらに揺さぶるマドル。
「そ、それとこれとは、話が違いますわ。いくら恨めしくとも、人を殺すだなんて」
「わたしに達には、あんな恐ろしいマネはできません」
「事件現場の惨状を、ご存じのようですね?」
「そ、それは……新聞にも載っていたし、警察の方々も話されてましたから」
「新聞は、吾輩も目を通しました。何処から漏(も)れ聞いたのか、マスコミとは恐ろしいモノです」
マドルは、見せかけの笑顔を作った。
急に墓場のステージが暗転し、マドルにだけスポットライトが当たる。
「この時、吾輩は彼女たちから、最初の聞き取りを行った。感想から言えば、少なくとも2人の姉妹の犯行である可能性は、薄いと言える」
「え、どうしてだよ?」
「オレ、2人はけっこう怪しいとも思ったケドな」
「なんで、そうなるのよ。絶対、白でしょ」
観客席が、騒(ざわ)めいた。
「吾輩の質問に対し、姉妹はあまりに無防備だった。自分が犯人と疑われてしまう返答を、平気でしていたのだからね。もっとも、それも演技である可能性も無くはないが……」
マドルは、言葉を濁(にご)らせる。
「それから吾輩は、現場も調査してみた。メイド長の言っていた、黒いレインコートの人物も気になっていたからね。だが残念ながら、事件当時は大雨が降っていたコトもあって、現場に残されるハズの足跡も、すっかり消えてしまっていたんだ」
マドルは、お手上げと言ったポーズで、おどけて見せた。
「オイ、キミ。再び、キミの見解を聞こうじゃないか?」
久慈樹社長が、しつこくボクに問いかけて来る。
「そうですね。第2の殺人は犯人にとって、最も都合の良い日に決行されたと言うコトでしょうか?」
ボクは少しだけ、探偵気取りで言った。
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