宇宙の塵(スペース・ダスト)
宇宙空間に漂う、アマゾネスが駆っていたサブスタンサーの残骸。
「これは……ボクがやったのか?」
実感が全然湧かない。
ふと右手を見ると、巨大な剣が握られていた。
「機体が両断されても、爆発はしないんだな」
「エンジンだの、原子炉だの積んでるワケじゃねえからな」
「それじゃあ、中の人も……」
4機のサブスタンサーに乗っていたパイロットたちも、無事であろう。
そう思った矢先、破断した機体の断面から何かが零れた。
「うわああ、人が……上半身だけの女の人が……」
ボクの巨大な瞳に、宇宙空間に放り出される女性の姿が映る。
彼女は、白い宇宙服を着ていたが、下半身が無かった。
「ボ、ボクは……人を……」
「アホか、今やってんのは戦争だ」
「ボクの時代に……戦争なんて無かった」
「それはどうかしら。艦長が生まれた21世紀でも、戦争はあったみたいよ」
「少なくとも、ボクの目の前では無かったんだ」
「艦長よ。お前が寝ている千年の間にも、数えきれない戦争があったぜ」
「人類は戦争を……まだ捨ててないのか」
ボクの中から、巨人となって宇宙に飛び出した時の昂揚感など、消え失せていた。
「セラエノとアステリアが、やられた」
「マルぺとテクメッサもだ」
「おのれ、よくもォ!」
アマゾネスの機体同士の通信が、ボクの耳にも聞こえた。
怨嗟の声を上げ、ボクに向かって突っ込んで来るアマゾネスのサブスタンサー。
「やめろォ、キミたちまで死にたいのか!」
「うるさい、黙れ!」
「セラエノたちの仇を取らずして、引けるものか」
リューディア・アマゾー二アと呼ばれるタイプの、白い汎用機体が5機、剣や槍、弓を模したレーザー銃を手に、襲い掛かって来る。
「クッ、せめて脚や腕を狙って、無力化しないと」
必死に、彼女たちの機体の手足を狙うが、簡単には行かなかった。
「なにやってやがる。これはゲームなんかじゃねぇんだぞ」
プリズナーのサブスタンサーが、ボクの前に割り込んで2機を撃破する。
「ギャアアアア!」
「グエッ!」
悲痛な断末魔の叫びまで、耳に飛び込んで来た。
「なんでボクたちが……なんで戦わなきゃいけない!」
「いい加減、覚悟を決めろ。そうしなきゃお前自身やあの小娘どもが、宇宙の塵(スペース・ダスト)にされちまうんだぜ」
「セノンや……真央たちが……」
その光景が、脳裏に浮かぶ。
「フィービーと、デイアニラまで死んじまったぁ」
「キサマ、絶対に許さない!」
「もう……もう、止めてくれェーー!」
機体の性能差は、圧倒的だった。
フラガラッハが、容赦なく彼女たちの機体を切り裂いた。
「エウリビアとアルぺプまで……なんて機体だ」
「プロトホーもやられた。残るは、わたしたち3機と……ギャィアァァ!?」
固まっていた3機が、無数のレーザーを浴びて溶ける。
「アマゾネスのクセに、戦場で油断しているからよ」
「トゥランか……ペンテシレイアの部隊はどうした?」
「隊長機以外は、全て片付けたわ」
イルカの形に変形したアフォロ・ヴェーナーの向こうで、無数のスペース・デブリが漂っていた。
「アエラ、フィリピス、エリボエア……お前たちまで、逝ったのか!?」
「ヒュッポリュテー、こちらも全ての部下を失ってしまった」
1時間前まで、それぞれ12機の部下を率いていた、2人のアマゾネスの女王。
「これ程までの戦力とは……だが、イーピゲネイアさまの革命のご遺志は、絶対だ」
ヒュッポリュテーの黄金のサブスタンサー、『エポナス・アマゾーネア』が、プリズナーのバル・クォーダと斬り結ぶ。
「艦長。宇宙に散って言った仲間たちの仇、お覚悟を!」
「ペンテシレイアさんなのか、どうしてこんなコトに!?」
ボクのゼーレシオンも、彼女の機体『スキュティア・アマゾーネア』の一撃を受け止める。
戦場には、敵味方を合わせても、5機のサブスタンサーが残るのみとなっていた。
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