フラガラッハ
「これが……宇宙空間……なのか?」
小惑星の、1Gまで押し上げられた重力エリアを抜けると、無重力がボクを出迎えた。
「なんだか、息が詰まる気がする。ボクは今、巨人になっていて、自分の身体がどうなっているのかすら解からないのに……」
確かめようと自分の手を握ると、握られた巨人の手が見える。
「オイ、宇宙を満喫するのが済んだら、さっさと加勢しろ。数の上じゃ、圧倒的に不利なんだ」
プリズナーの声が聞こえる。
宇宙に、音を伝える伝導子である空気は無いが、電磁波による通信なら当然可能だ。
「わ、解かった」
……とは言ったものの、どうやって!?
その瞬間、ボクの身体(ゼーレシオン)が思った方に方向を変える。
「これは、ホントに思いのままに動くぞ」
自分の身体を動かす感覚で、まったく違和感がなく動かせる巨人。
「でも、足場の無い宇宙空間で、なんで簡単に移動方向を変えられる?」
「慣性制御用の反物質メダルが、各所に散りばめられているのよ」
「反物質メダル……反物質って確か、自然界じゃ落雷なんかの限定的な現象でしか、生まれないんじゃなかったか?」
「ジジイのクセに、やけに詳しいな。反物質メダルは、それを都合よく生み出せるのさ」
「現在の科学では、標準的な装置になりつつあるわ。最も、これだけ高度に完成された姿勢制御には、驚いたけどね」
「つまり、反物質の対消滅で生み出された力で、姿勢制御をこなしているのか」
反物質は、生み出されると一瞬で、物質と対消滅を起こして消えてしまう。
けれどもその時に、大きなエネルギーを生むんだ。
「おじいちゃん、こっちは戦闘の真っ最中なんですゥ」
「アタシらのサブスタンサーは、無えのかよ。歯がゆいぜ」
トゥランのアフォロ・ヴェーナーに乗り込んでいる、セノンや真央。
「今行く。戦場が見えた……」
カッコよさそうな台詞を言ってしまったが、ボクに戦闘経験は無い。
それどころか千年前は、不良にコテンパンにのされるくらいの弱さだった。
「艦長、後ろ!」
トゥランが叫ぶ。
振り返ると、1機の白いサブスタンサーが、大きく剣を振り上げている。
「わ、わあああぁぁ!?」
咄嗟に、左腕の巨大な盾で防いだ。
剣は弾かれ、なんとかガードに成功する。
「オイ、なにやってんだ」
「何をって……戦闘なんて始めてなんだ」
「悪いけど、こっちも手一杯の状態なのよ。対処は任せるわ」
プリズナーも、トゥランも、多くの敵を前に苦戦を強いられている。
加勢は望めない状況で、先ほどの白いサブスタンサーが再び攻撃を仕掛けて来た。
「武器は……なにか武器は、ないのか?」
けれども、ロボットの操作マニュアルなんて、どこにも落ちていない。
「そもそも、ボク自身が巨人となっている状態じゃ、あっても読めないじゃないか!」
盾で必死に、攻撃を防ぎ続ける。
「艦長、そっちに3機行ったぞ」
「囲まれたら危険……」
「あとは頑張ってとしか、言えない」
「そりゃ無いだろ。ど、どうする……」
3人のオペレーター娘たちのアドバイスに不満を持ちつつ、対処法を考える。
『フラガラッハ……』
「えッ!?」
頭にいきなり、声が響いた。
「フラガラッハって……その声、黒乃なのか?」
それは千年前の世界から、ボクを未来に導いた少女の声にソックリだった。
「お、おじいちゃん、後ろにも敵がいるよ!」
「完全に、囲まれちまってる」
ボクは我に返って、周りを見渡す。
「敵のサブスタンサーが、4機……」
考える間も無く、それらが同時攻撃を仕掛けて来た。
「おじいちゃん、危ない!」
「避けろ、艦長!」
「うわあ……フラガ……ラッハ!!」
ボクはいつの間にか、声が教えてくれた『ワード』を叫んでいた。
すると、腰の後ろにあった長い鞘が展開し、巨大な剣が姿を現す。
ボクはそれを、バットでスイングする様に振り斬った。
「ス、スゴイ……のですゥ」
セノンの声に目を開けると、周りで4機のサブスタンサーが両断されていた。
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