ゲーと脱出
強襲揚陸艦の如く、海から陸地に乗り上げたアフォロ・ヴェーナー。
「し、しまッ……!?」
シャラー・アダドに続き乗り込もうとした瞬間、巨大な大蛇と化したゲーが、ゼーレシオンを押し潰すように襲いかかって来た。
「おじいちゃんは、やらせない!」
すると巨大なイルカの側面格納庫から、1機のピンク色の機体が飛び出て来て、ゼーレシオンにラグビーのタックルをするように、抱き付く。
「う、うわあッ!?」
けれどもゲーの巨体は、飛び出して来た機体ごとゼーレシオンを押し潰した。
「なにやってんだ。いきなり死んでんじゃ、ねェぞ!」
プリズナーの、怒鳴っている声が聞える。
「セ、セノン!?」
「ウ、ウソ……」
「そんな……」
真央、ヴァルナ、ハウメアの、聞き慣れた声も聞こえた。
「大丈夫だ、みんな。セノンが、助けてくれた」
生身でゲーに潰された時と違って、死んだと言う感覚はまったく無かった。
「おじいちゃん……」
ゼーレシオンの上に、覆い被さっている機体から、世音(せのん)・エレノーリア・エストゥードの声が聞こえる。
機体はサブスタンサーで、パイロットはセノンなのだろう。
ゼーレシオンがスクラップにならなかったのは、この機体の能力のお陰らしかった。
「セノン。まさかキミが、来てくれるなんて……」
「細かい話は後だよ、おじいちゃん。今はココから抜け出さないと、長くはもたないから」
大蛇の姿の地母神の下敷きとなっているから、セノンのサブスタンサーの細部までは確認できない。
けれども、頭部から出たゲル状の何かが、ボクたちの周りを囲んでいるのだけは解った。
「これは返って、好機かも知れない」
「どう言うコトです、おじいちゃん?」
「ゲルを一部、解除できないか。これだけ接近していれば、ゲーを内側から倒せる」
「了解だよ。上の方を開けるね」
「有難う、セノン」
ゲルが解かれると同時に、ゼーレシオンがすかさずフラガラッハを振り抜く。
「流石の切れ味だ……」
全てを切り裂く剣が、いとも簡単にゲーの腹部装甲を斬り裂いた。
「ブリューナグ!」
ボクの声に反応し、ゼーレシオンの左腕に装備された大盾が展開する。
展開したアームらによって光のエネルギー弾が形成されて行った。
「ブリューナグを叩き込んだあと、ゲルをもう1度閉じてくれ!」
「はい、おじいちゃん!」
目の前の、小型のサブスタンサーが言った。
どうやらセノンの乗る機体は、頭部のクワトロテールがゲルとして機能しているらしい。
「行ッけェ、ブリューナグ!!!」
大きく成長した光球が、フラガラッハの切り裂いたゲーの腹部に入って行った。
光球を制御できるウチに、ボクはゲーの内部を駆けのぼらせる。
「み、見ろよ。大蛇が内部から破壊されて行ってるぜ」
「アレってやっぱ……」
「ゼーレシオンの、ブリューナグだよ!」
真央たちの声が、ボクの見えない外部の様子を伝えてくれる。
「ゲルを閉じるね、おじいちゃん!」
「頼んだ、セノン!」
ブリューナグを通したゲルの穴が、一瞬で縮んで消えた。
眩い閃光と灼熱の炎は、2機のサブスタンサーの周囲を包む。
けれども展開されたゲルは、ボクたちをそれらの脅威から護ってくれた。
「覆いかぶさっていたゲーが、無くなった。脱出するぞ、セノン!」
「ハイですゥ!」
炎の勢いが弱まると、ゼーレシオンはセノンのサブスタンサーを抱えて飛び出す。
「ゲーが、真っ二つになっている。やったのか?」
真下を見ると、内部から破壊されたゲーの蛇体が、前後に切断されていた。
「イヤ、ゲーの本体は頭部だ。蛇の身体は、オプションの1つに過ぎねェ!」
「ゲーのコトを知っているのか、プリズナー?」
アフォロ・ヴェーナーの格納庫の入り口に、プリズナーのバル・クォーダが立っていた。
「今は、人の過去を詮索してる場合じゃねェだろ。さっさと、乗り込みやがれ!」
「わ、解った!」
ゼーレシオンは、アフォロ・ヴェーナーの展開した簡易デッキに着地する。
後ろを見ると、破壊された蛇体を切り離しているゲーの姿があった。
まだ八王子のドーム都市には、1つ目の巨人や腕のたくさん生えた巨人も残っている。
ボクたちを収容した巨大なイルカは、再び海の中に潜って行った。
前へ | 目次 | 次へ |