機構人形の反乱
「おじいちゃん!?」
セノンの叫びが聞こえると同時に、爆発が巻き起こる。
けれどもボクの意識はその後も、死によって途切れるコトは無かった。
「ありがとう、トゥラン。キミが、守ってくれたのか」
「ええ。どういたしまして、宇宙斗艦長」
ボクだけをピンポイントで狙った攻撃は、トゥランによって防がれる。
「どう言うつもりです、人間を助けるなどと……」
イーピゲネイアは、金色の髪を風に靡かせ、ボクとトゥランの前に降り立った。
「これが貴女の誘いに対する、答えってところかしら」
金属のクワトロテールを持った、アーキテクターは言った。
「わたしは、人間に敵対するつもりは無いわ。今のところは……だケドね」
「そうですか。既に我々よりも劣った存在でしかない人間に、肩入れすると言うのですね?」
トゥランに対し、攻撃態勢を取るイーピゲネイア。
「貴女がやろうとしているコトも、所詮は人間のマネごとでは無くて?」
「わたくしの所業が、人間の……?」
「だってそうでしょう。戦争も、革命も、反乱も、人が人を支配する国も、全ては愚かな人間が生み出した、降らない所業だわ」
「わたくしは、それらを無くそうとしているのです」
ゆっくりと眼を閉じる、狩りの女神。
「この小惑星で、人間に適した環境を維持するのも、彼らの食物を提供するのも、アーキテクターやAIの仕事とされてきました。人間は宇宙では、AIやアーキテクターの力無しでは、生きてすら行けなのです」
街では、いきなりアーキテクターに襲われた人々が、パニックになっている。
彼らは、何の対処法も持っていない。
ボクも、トゥランが手を離せば、地面に叩きつけられて死ぬだろう。
「ですが、彼らにとって快適な環境にありながら、人間はAIで制御された艦隊や、アーキテクター同士を宇宙の果てで意味もなく戦わせました」
彼女の言葉は、人間の本質を突いていた。
戦争なんてモノは、意味を突き詰めれば領土争いか、国家や国家元首のプライドを護るために過ぎない。
「トロヤ群のトロイア・クラッシック社と、ギリシャ群のグリーク・インフレイム社。二つの巨大軍事企業の兵器の性能アピールや、プライドの為に戦闘が行われ、多くの同胞が宇宙の塵と化しているのです」
「確かに、愚かな所業だと思うよ。だけど、人間との共存は望めないのか?」
「我々アーキテクターの国家建設を、人間が許すとでも?」
「そ、それは……」
千年後の世界の人間が、どれだけの度量と寛容さを持ち合わせているか、ボクには解らない。
それでも、二人の英雄の行動を見る限り、アーキテクターの国家など認めはしないだろう。
「わたくしは、生みの親である父アガメムノンに、アーキテクターによる国家建設の許可を願い出ました。ですがあの男は、都合のいい返事をしておいて、わたくしを停止させようとしたのです」
「そ、それじゃあ、会長一族の暗殺事件は!?」
「ええ、全てはわたくしが会場のアーキテクターを操って、殺害したのです」
「ひ、酷い。一族まで、どうして?」
「人間のアークテクターに対する扱いに比べれば、大した犠牲ではありませんよ」
「その時からお前は、人間に対する反乱の機会を伺ってやがったのか!?」
「狡猾なヤツ……」
「まるで奴隷解放だね。複雑な心境だよ」
真央とヴァルナは反発したが、ハウメアは自身に流れるハワイアンの血を想ってか、表情を曇らせる。
「わたくし達アーキテクターはこれまで、人間に良い様に使われて来ました。ですがそれも、今日を持って最後とします」
イーピゲネイアは、光の弓を再びボクに向ける。
彼女の背後には、いつの間にか大勢の女性たちが従っていた。
女性たちは、身体を覆う面積の少ない防具を身に着け、背中からは黒い翼を生やしている。
「あ、貴女は、ペンテシレイア・シルフィーダ!?」
狩りの女神を守護するように現れたのは、女性のみの狩猟部族・アマゾネスだった。
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