13人の少女
「骨まで砕かれ、肉片と化した人間が……再生しただとッ!?」
サタナトスは、戦慄を感じる。
孤児の少女たちはリザードマンによって殺され、捕食までされていたのだ。
「こ、こんなバカなコトが……アズリーサ、お前は一体……」
金髪の少年の瞳が、実の妹へと向けられる。
「アズリーサ!」
リザードマンの群れを一瞬にして葬り去り、死んだはずの少女たちを甦えらせた蒼い髪の少女。
魔力を使い果たしたのか、気を失って泉の中に倒れる。
「お前はやはり、魔王の血を引いているのか。それに、母様の血も……」
サタナトスが、妹の元へと駆け寄って抱きとめる。
既に、背中に羽根は無く、大鎌も何処かへと消え去っていた。
「魔物を屠った大鎌は魔族の血の証だろうし、死者を甦生したのは天使の血を引く母の影響だろう」
水辺に置いてあった衣服を妹に着せながら、少年は考える。
「さて……アイツらも助けないとな」
泉の水面に少女たちがプカプカと浮いていたし、茂みに倒れている少女も居た。
サタナトスは妹を水辺の低木にもたれ掛けさせ、少女たちをかき集めた。
「コイツら全員、お尻にシッポが生えてるし、数がやけに多い気が……」
妹の傍らに少女たちを並べるにつれ、少年の顔が青褪める。
「な、なんてコトだ。セリアとサティが2人ずつ、ジルとミリィとシアが3人ずつ居るぞ!?」
泉をくまなく探し回った結果、サタナトスが見つけた少女たちは、13人に及んだ。
「それにみんな、喰われて甦ったせいか、分離し増殖たせいか、幼くなっているな。見たトコ、5歳から8歳って感じか?」
裸の少女たちに服を着せようとするが、サイズも全然合わない。
「……ん、どうしたの、兄さん?」
「アズリーサ、気が付いたのか」
「ええ……あら、このコたちは?」
「お前が甦らせた、ジルたちだよ」
「え……そう……そうなの、良かった」
蒼い髪の少女は、気を失っている幼い少女たちを胸に抱く。
木漏れ日を浴びる表情は優しく、天使の様でもあった。
「ヤレヤレ。良かったと言うべきなのか、これは」
金髪の少年は、深いため息を付いた。
砂漠に沸いたオアシスの泉は、元の平穏な美しさを取り戻していた。
「これで良しっと。これで全員分の、衣服が出来たわ」
「面積は、ずいぶん減ったケドね」
サタナトスの瞳に、胸とお尻だけ隠れるくらいの衣服を着た妹の姿が映る。
「仕方ないでしょ。元の動きづらいのより、マシなくらいよ」
妹は、兄に借りたナイフを還しながら言った。
「これ、涼しいよ」
「うん、サイコー」
意識を取り戻した少女たちも、似たような恰好をしている。
「お前たち、自分の名前は解かるか?」
サタナトスが、実験的な質問をした。
「わたし、ジルだよ」
「なに言ってるの。ジルはわたしだよ!」
「違うって、わたしがジルなのォ!」
そんな会話が、5組の少女たちの間で巻き起こり、ケンカが始まってしまう。
「もう、兄さん。イジワルな質問しないで。今はみんなが生き返った奇跡に、感謝するべきよ」
「神の奇跡か、悪魔の所業か……ボクには判断がつかないね」
「こんなに可愛らしいコたちが、生きていてくれてるんだから、奇跡に決まっているわ」
「そう……だな」
少年は、妹の笑顔が再び見れたコトには、素直に感謝した。
「ゴメンなさい。わたしが軽卒だったわ。みんなを、こんな酷い目に遭わせてしまって……」
「お前が言い出したコトじゃ、ないだろう?」
「兄さん……」
サタナトスには、ジルやミリィたちが汚してしまった衣服を洗い、身体を清めようと妹を泉に誘ったコトが解っていた。
「さて、これからどうするか」
「マルクやケイダンたちと、合流しましょう」
「そうだな。アイツらジルたちを見たら、腰を抜かしそうだ」
サタナトスたちは、最初にビバークした野営地に戻る。
けれどもそこに、少年たちの姿は無かった。
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