智草 杜邑と葛埜季 多聞
「おッ、まずは柴芭のチームが仕掛けるぜ」
体育館の2階通路から、戦況を見つめるデッドエンド・ボーイズ。
「坊主頭の誰かが、シュートしたぞ!」
穴山三兄弟が、巧みなパスワークで中盤を切り崩し、長男の穴山 範資がミドルシュートを狙う。
「ああ、惜ッしい。もうちょっとでゴールだったのに」
けれどもシュートは、キーパーが正面でキャッチし、こぼれ球を狙って詰めていた、三男の穴山 則祐の苦労も無駄に終わった。
「キーパーのファインプレイだ。見た目はハデだが、意外に堅実なプレイをするな」
「そうかぁ。オレさまにはそうも見えなかったぞ?」
「シュートを予測して、一早くコースに入っていたからイージーキャッチに見えただけだ」
ボクも、雪峰さんの意見に賛成だな。
2試合、キーパーってポジションをやってみて解った気がする。
キーパーにとって最も重要なのは、どんなシュートでも対処できる体制を作って置くコト。
「うわッ。あの智草 杜邑(ちぐさ とむら)ってキーパー、また止めちまったぞ」
それにはまず、相手のパスやシュートなど、1つ1つのプレイを的確に読む必要がある。
あのキーパーは、それが出来ているんだ。
ボクは途端に、智草 杜邑に興味が沸いた。
背中に金の龍が画かれたハデなユニホームも、体育館の床に着くコト無くボールが処理されて行く。
「クッソ。どうしてこうも、シュートが正面を突いちまうんだ?」
「こ、これだけボールが回ってんのに、得点だけ出来ねえ」
「イヤな流れだぜ」
「あの智草と言うキーパーが、思ったよりも能力が高いからだ。とくに、ポジショニングが的確だから、シュートが正面を突く」
「そ、そおッスか、柴芭さん?」
「でも、ボールを回してんのは、オレらっスよ」
「他のフィールドプレーヤーは、大したコト無いから、いずれは得点チャンスが……」
「フッ、どうだかな。ボクには相手が、手を抜いているように感じるんだが」
「考えすぎっスよ、柴芭さん。あんなザルディフェンス、オレが突破しますって」
次男の穴山 貞範が、得意のドリブルで仕掛ける。
その前に、一人のディフェンダーが立ちはだかった。
「なんだァ。今度は簡単に、スピードを止められちまったぞ?」
「コースに先に、入られたな。こうなると、テクニック勝負になるが……」
紅華さんは、ボールを奪われるコトを予想する。
「うわあッ!?」
そして、その通りの結果になった。
ディフェンダーは、ボールを持ったままドリブルで持ちあがる。
強靭な筋肉で覆われた腰回りに、引き締まった上半身。
野性的でありながら、テクニックも兼ね備えたドリブルで相手コートに侵入した。
「ス、スゲエじゃねえか。ホントに、ディフェンダーかよ!?」
「サッカーで言えば、センターバックのポジションのハズだが、ここまでオーバーラップをするとなると……リベロか」
「そうだ、紅華。彼は、今年の大阪代表になったチームに、最後まで得点を許さなかった男」
「く、倉崎さん……」
「名を、葛埜季 多聞(くずのき たもん)と言ってな」
サングラスを外す、デッドエンド・ボーイズの代表取締役。
「惜しくも2回戦で敗れはしたが、大阪代表となったチームの誰よりも、個人評価が高い。既にいくつものプロチームから、オファーが届いているとの噂だ」
「そんなヤツがなんで、フットサルの大会に出てやがるんだ!?」
「でもよ。夏の目標を失ったんだから、わかんなくもねェジャン?」
「ま、確かにそうか……」
紅華さんと黒浪さんが話している間に、葛埜季 多聞のシュートがゴール右隅に決まっていた。
「柴芭のチームが、先制を許しただとォ!?」
「こりゃあ、大変なコトになって来たぜ」
チェルノ・ボグスに得点を許した、マジシャンズ・デスティニー。
まだ試合開始から、15分が経過したばかりだった。
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