ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~外伝・13話

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砂嵐

 砂は舞い上がり、巨大なカーテンとなって全方位を覆う。

「こりゃ完全に、砂嵐ですぜ」
「位置が解らなくなって、砂漠で遭難する恐れがありやす」
 剣や槍で武装した、やせ細った兵士たちが隊長に進言した。

「心配せずとも、既に礫の砂漠だ。オオカミの骨が、あちこち転がってやがる」
 蜃気楼の剣士は、それが村長から聞いた話の通りであるコトに、ため息を付く。

「こ、これだけの数のオオカミを……」
「サタナトスってガキが、たった1人でやったんですかい」
 キャス・ギアより派遣された兵士たちは、少年の痕跡に驚愕した。

「この先が、オアシスなのであろう?」
 ムハー・アブデル・ラディオは、自身の剣を持たせている少年に問いかける。
虚ろな目をした少年は、コクリと小さく頷いた。

「まったくラディオさまが、質問されておられるのに……」
「愛想の無いガキだぜ」
 それでも少年は口も開かず、ただひたすらに剣を運んでいる。

「お前、名を何と言う?」
「……ケイダン」
「そうか、良き名だ」

 ラディオには、少年が辛い目に遭って来たコトは、容易に想像ができた。
けれどもそれ以上は聞かず、目的地へと歩みを進める。

 砂嵐は視界をほとんど遮り、近くであるハズのオアシスすらも隠してしまった。

「凄い砂嵐だわ。周りの様子が、殆ど見えない」
 オアシスにて兄の帰りを待つアズリーサも、同様の現象に悩んでいる。

「この砂嵐じゃ、兄さんも遅くなりそうね」
「ねえ、アズリーサ」
「誰かこっちに来るよォ?」

「え、アナタたち、解かるの。兄さんかしら?」
「タブン違うと思う」
「それに、一人じゃないみたい」

 アズリーサによって、砂漠棲のリザードマンと融合し甦った少女たち。
彼女たちは、砂嵐の中でも僅かな視力を発揮した。

「砂嵐を避けたいだけの、冒険者って可能性もあるケド……嫌な予感がするわ」
 アズリーサは、13人の少女たちに指示する。

「アナタたち、オアシスの泉の中に潜って。合図するまで、出てきちゃダメよ」
「わ、わかった」
「アズリーサも、隠れた方がいいよ」

「そうね、解ったわ」
 アズリーサも、木陰に身を潜めて様子を伺う。
辺りには低木しか生えておらず、オアシスの面積もそこまで大きくは無かった。

「ここじゃ簡単に、見つかっちゃうわね。かと言って、あのコたちみたいに長く潜ってられないし」
 すると砂のカーテンの中から、大勢の人間が姿を現す。

「ホ、ホントに、オアシスがありやしたぜ」
「緑に覆われて、果物まで実ってます」
「水だって、たんまりとあるぜ。魚も泳いでやがる」

 飢えに苦しんでいた兵士や村人たちにとって、オアシスの光景はまさに楽園だった。

「お前たち、警戒は怠るなよ」
 ケイダンから剣だけを受け取ったラディオが、臨戦態勢を取りながらオアシスの様子を伺う。

「ここは、砂漠棲のリザードマンたちの縄張りらしいが、どうやら気配は感じられねえな」

「子供たちの話じゃ、オアシスのリザードマンは」
「サタナトスが倒したって……なあ?」
 村長の付き添いとして来た村人が、ケイダンに質問を振った。

 けれども少年は、俯いたまま答えない。
それはマルクが付いた嘘であり、真実では無かったからだ。

「ムッ、そこに誰か居るのか?」
 微かな気配を察したラディオが、木陰に剣先を向ける。

「……アズリーサ?」
 少年が、ポロリと呟いた。
すると低木の影から、蒼い髪の少女が姿を現す。

「この娘が、件(くだん)の娘か?」
「へい。ウチの村の教会で、孤児として食わせてやっていた……」
「アズリーサに、間違いありやせん」

「兄の方の姿が、見えんようだが」
 ラディオの言葉に、アズリーサの顔が強張った。

「おい、ラディオさまが質問されているのだ」
「サタナトスはどこだ。さっさと答えないか!」
 村に暮していた時と同じ、高圧的な態度の2人の村人。

「兄はここには居ません。逃げました」
「逃げただとォ。アイツがお前を捨てて、逃げるハズがなかろう」

「ケイダン……無事だったのね」
 村人たちの怒声を無視し、幼馴染みの少年に語りかけるアズリーサ。

「マルクやキノたちも、元気よね。ね、そうでしょ?」

 けれども少年は、唇を深く噛み俯くだけだった。

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