ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第05章・36話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

解き放たれるトロイの木馬

「『トゥラン』は、エトルリア神話における、愛と生命の女神よ」
 クワトロ・テールのアーキテクターは、自らの名前の由来を語り始めた。

「エトルリア神話……確かに聞いたコト無いな」

「メジャーな神話で無くて恐縮ね。エトルリアは、イタリアの古代都市国家の一つよ。同じく都市国家の一つに過ぎなかったローマに、攻め滅ぼされてしまったケドね」

「ローマって、あのローマ帝国のか?」
「ええ。ローマ帝国の皇帝の何人かは、エトルリア人だって言われているわ」
 トゥランはボクとセノンを支えながら、クワトロ・テールの先端を分離する。

「わたし達の名前である『ラサ』も」
「エトルリアの女神さまの名前なんだよ」

「トゥランの従者みたいだケド」
「これでも独立した、リッパな女神なんだから」

 トゥランの髪先から分かれた、4人の小さな女神。
空中を軽やかに飛び周りながら、真央やハウメア、ヴァルナの方へと向かった。

「お、お前らが助けてくれんのか」
「サンキュー……」
「セノンも、乗っけてもらいなよ」

「ハイですゥ」
「かなり小型なのに、大丈夫なのか?」
 ボクは心配しながら、セノンをラサの一体に預ける。

「失礼ね」「ちゃんと半重力クラフトは可能だよ」
「でも、狩りの女神が狙ってる」「気を付けて!」
 セノンとラサが離れた瞬間、真っ白い閃光が駆け抜けた。

「な、何とか当たらなくて、良かった」
「いいえ、あえて外したのよ」
 ボクを支えるトゥランが、センサーカメラを上に向ける。

「貴女を破壊するのは、本意ではありませんからね」
 イーピゲネイアも、ターコイズブルーの瞳にトゥランを映した。
優れた能力を持ち、互いに女神の名を冠する二人が睨みあう。

「いかがでしょう。貴女も、アーキテクターに支えられなければ空も飛べない人間など捨てて、我らアーキテクターの国家作りに協力していただけませんか?」

「アーキテクターの国家だって。キミ一人の国じゃないか。確かにキミの能力なら、他のアーキテクターを操れるだろう。でも、それは単なる洗脳に過ぎない」
 ボクはあえて、アーキテクター同士の交渉に割り込んだ。

「なる程……人間であるアナタの認識は、その程度というワケですか」
「何が言いたい!」

「下を御覧なさい」
「え……!?」
 ボクは言われた通り、眼下に広がる街を見る。

「こ、これは……街のあちこちで、人が襲われている!?」

「わたくしは、このトロヤ群のシステム全体を掌握しています。ですが、一人一人のアーキテクターは、自らの意思によって反乱を起こしているのですよ」

「人が人を襲っている様に見えるが、アレも全部アーキテクターなのか?」
「そう言えば……最近は、人間に見間違えるタイプも増えたって……」
「そっか。ショップの店員さんが言ってたね」

 彼女たちが今着ている服を創った、店員の発言をボクも思い出す。
機構人形やAIの人間に対する反乱は、水面下でひっそりと、だが着実に進められていたのだ。

「トロイの木馬は解き放たれました。トロイは一夜にして滅んだといわれますが、アナタたち人間も同じ道を辿るのです」

「まさにSF映画やゲームさながらの、AIの反乱だな」
「そんな悠長なコト、言ってる場合じゃないよ、おじいちゃん」

「このまま降下したところで、アーキテクターの反乱に巻き込まれるだけだぜ」
「でも、アイツは待ってくれそうにない……」
「これ、完全に詰んでるんじゃない?」

「ようやく理解できましたか。では、引導を渡して差し上げましょう」
 金色の髪の少女は、手に光の弓をつがえる。
弓から放たれた矢は、いびつな螺旋の軌道を描きながらボクの顔目掛けて飛んだ。

「う、うわああッ!?」
 目の前が真っ白になり、衝撃波が走る。
ボクは死を覚悟した。

 前へ   目次   次へ