天空教室の女神たち
「ところで先生、昨日の授業の動画は見たっスか?」
「昨日……授業って、昨日だったか?」
「何言ってるんですの、先生」
「もう、お忘れですか」
「いや、アレから色々とあってだな」
昨日、天空教室の撮影があってから、まずはキアの家を訪ねた。
家庭内暴力によって、父親に傷付けられたキアとシアを、病院に担ぎ込んだのも昨日。
「まだ全然、見れてないんだ」
キアの緊急手術が行われ、病院を訪ねてくれたユミアと待合室で夜を明かす。
彼女をタクシーで送り、それから泥のように眠った。
「この家、光回線の契約をしていないから、まだテレビは映らないんだよなあ?」
「そぉっスねえ。じゃ、アタシのスマホの画面、出力するっスよ」
「ああ、頼むよ」
それから朝になって、この三つ編みお下げの女の子、天棲 照観屡が訪ねて来たんだ。
そしてボクは、長年住んだアパートを彼女に追い出される。
「スマホの画面って、テレビに映せるんですの?」
「対応してるスマホなら、変換ケーブル差すだけで、行けるっスよ」
「テミルさんは、デジタル機器にお詳しいんですのね」
「株やFXやってれば、マルチディスプレイは必須っスからね。アロア氏も、メロエ氏も、動画で売っていくつもりなら、デジタル機器の扱いは覚えておいて損はないっス」
テミルがテレビの横にコードを差すと、画面が映った。
「『天空教室~始動編』か。まるで、アニメのタイトルだな」
「まだ、動画の方向性が模索中って感じっスね」
それからボクたちは、20分の動画を見た。
「まだ第一回と言うこともあって、プロローグ的な構成にまっておりますわね」
「ええ、お姉さま。期待を煽って、次回以降の視聴を促す感じですわ」
ゴージャスな身体の双子姉妹が、感想を述べる。
「先生はご自分の授業、どう思ったっスか?」
「そ、そうだなあ。正直自分じゃ、良くわからないよ」
「それじゃあ、コメ欄でも見て見るっスか」
「あ、ああ……」
ボクは、思わず生唾を飲み込んだ。
「コメ20万って、流石はユークリッドっすね」
「昨日の夜に見た時の、4倍くらいになっておりますわ」
「ネットの噂って、指数関数的に増えて行きますものね」
「それで、何が書かれているんだ……」
「今、読み上げアプリで、読み上げるっスよ」
テミルが、コメ欄を読み上げるアプリを起動する。
『コイツの授業、マジ詰まんね~』
『なんで先生なんかやってんだよ。教え方、下手過ぎだろw』
『しかも、ユミアちゃんが生徒にいるジャン』
『どう考えたって数学は、ユミアちゃんのが上』
『タブレットと白板で授業って、意味あんの?』
『コイツがマズ、ユークリッドの教育動画を見て、勉強して来い』
「えっと、ほぼ否定的な意見ばかりっスね」
三つ編みお下げの少女は、残酷なホドあっけらかんと言い放った。
『ユミア氏の他にも、可愛い女の子ばっかジャン』
『授業も全然はしょられてたし、つまりアイドル系の動画なんじゃね?』
『それならアリかもな。ただ、授業風景を流してるだけだケド』
『完全に、ハーレム教室じゃねえか』
『それだったら、昔の女子高だってそうだろ』
『女子高は、ブスやカスなんかの不純物が、混じってたんじゃね?』
『この教室、全員が可愛いじゃん』
『水色の髪のコ、双子かなあ?』
『二人とも、すっげえ胸デカ!!』
「うふふ、中々の反応ではありませんコト、メロエさん」
「そうですわね、これなら人気が出るのも、時間の問題ですわ」
優雅な笑みを浮かべ、喜ぶアロアとメロエ。
『オレ、チャンネル登録したわ』
『オレも。先生はゴミだケド、女のコたちマジ神!』
『それを言うなら、女神な』
「まあ、人気は出てそう……って先生、大丈夫っスか!?」
三つ編みお下げの女神は、カーペットにひれ伏すボクを気遣ってくれていた。
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