ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第23話

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株とFX

「華やかに見える芸能の世界も、大変なんスね」
 テミルが、腕を組んで感心する。

「別に、憐れんでもらわなくて結構よ。それに貴女だって、天空教室に在籍しているのだから、何らかの問題を抱えているのでは無くて?」

 気位の高いアロアが、攻勢に転じた。
自分たちに、まだ触れられたくない弱点がある場合、相手を攻めるのは有効な手立てだ。

「そう言えばお前の両親は、投資家だったんだよな?」
「タブン、今も投資家っスよ」
 ソファーの上で、胡坐(あぐら)をかくテミル。

「株やFXで大損ぶっこいて、借金地獄に陥り担保に入れてた店や土地を手放すハメになって、挙句に離婚までしていわゆる家庭崩壊ってヤツなんスけどね」
「その割りに、サラリと仰いますわね」

「まあアタシも、2千万くらい負けちゃって、親のコト非難できないんスよ」
「へ?」
「い、今、何と仰いました?」

「だから、2千万負けたんスよ。アタシは親の影響で、小学生の時から株やってたんスよ」
「さ、サラリと言い過ぎだぞ。に、2千万って……」

「FXに手を出したのが、失敗だったっスね。株でコツコツ増やしたのが、一瞬で吹っ飛んだっス」
「子供が、軽々しく吹っ飛ばしていい金額じゃ、ありませんコトよ!」

「投資の世界じゃ、ゴミみたいな金額っス。ウチの親は一人で4億負けてんスよ」
「サラリーマンの将来獲得賃金を、余裕で超えてるぞ!?」
「ま、二人とも実業家っスからね。それくらい普通っスよ」

「な、なんだか頭が、おかしくなってきましたわ」
「そうですわ、お姉さま。わたくし達がお仕事でいただく額なんて、5万くらいですのよ」
「子役の頃なんて、5千円の時もありましたわ、メロエさん」

「先生が言ってた通り、テレビ業界もネット動画に押されてるんスね」
「お・だ・ま・り。貴女に言われると、無性に腹が立ちますわ」
「働きもしないで、投資だけで稼いだお金とは、有難味が違いますわ」

「投資って……そんなに甘いモンじゃ無いっスよ」
「ど、どう甘くないと、仰るのかしら?」

「お二人は、自分が2千万負けたら、どんな気分になるっスか?」

「わ、わたくしが、2千万を……?」
「そうっス。それがほんの一瞬で、溶けて無くなるっス」
「ヒイイィッ。お、お姉さま、わたくしに投資はムリそうですわ」

「株価のチャートが気になって勉強も手に付かず、パソコンモニターの前にカジリ付いて、FXの僅かな値動きに狂喜乱舞してるんスよ」

「わ、わたくしも、無謀な散財は行けないと思いますわ」
 見た目はゴージャスな双子姉妹と、純朴そうな三つ編みお下げ娘。
けれども話す内容は、まるで真逆になっているかの様だった。

「テミル。いくら何でも、投資金額が大き過ぎやしないか?」
「元手は100万くらいっスよ。それが増えてったっス」
「そ、それにしてもだなあ……貯金をするとか」

「先生は通貨の価値が、変わらないと思っているっスか?」
「まあ物価が上がれば、相対的に通貨の価値は下がるが」
「銀行なんかに預けてたら、資産は目減りする一方っス」

「お前はそれ以上に、せっかく築いた財産を減らしてないか?」

「あの非日常の、財産を全て失うかも知れない緊迫感と、下げが止まらない時の胃液が逆流するくらいの絶望感が、たまらないっス」
「いいから止めとけ……」

 それからボクは、テミルの差し出した契約書にサインした。

「敷金やら共益費やらで、けっこう取られるな」
「一軒家を丸々借りられると思えば、安いモンっスよ」
 かつての家主一家であるアロアとメロエの手前、反論もし辛い。

「あと、ネット回線の利用料金は別っスからね」
「オレは、ネットは無くていいかな」

「ここいらは近くに高層ビルが建ってて、テレビの電波が届かないっス。ネット回線を利用した、テレビサービスがあってっスね」

 結局のところ家賃は5万だが、色々と積み重なって10万円コースが確実だった。

 

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