狩りの女神
「そんな……ペンテシレイアさんが、アーキテクター!?」
「彼女と、その部下である十二人のアマゾネス全員が、アーキテクターなのです」
「それじゃあ、クロニーさんも、ポレムーサさんも、デリノエさんも、エヴァンドレさんも、アンタンドレさんも、ブレムサさんも、ヒポトーさんも、ハーモトーさんも、アルシビーさんも、デリマチェアさんも、アンティブロテさんも、サーモドーサさんも、アーキテクターなんですかぁ!」
アマゾネス全員の名前を、一人ずつ正確に上げるセノン。
「彼女たちだけではありません。ヒュッポリュテー率いる、ギリシャ群のアマゾネスたち……」
金髪の少女のターコイズブルーの瞳は、宇宙空間のアマゾネスたちを映す。
「名を挙げるなら、アエラ、フィリピス、プロトホー、エリボエア、セラエノ、エウリビア、フィービー、デイアニラ、アステリア、マルぺ、テクメッサ、アルぺプの全員がアーキテクター。それにパトロクロスの住人に紛れて、大勢のアーキテクターが暮らしていますよ」
「ではやはり、ギリシャ群がこのトロヤ群を、占領しようとしているのでは……」
デイフォボス代表が言った。
「まだ解らないのですか。そうですね、ギリシャ群でも、このパトロクロスと同じコトが起きていると言えば、解っていただけるでしょうか?」
「そ、それはつまり、アーキテクターの反乱が、ギリシャ群の小惑星帯でも起こっていると?」
「ええ。ようやく貴方の頭でも、理解できたかしら」
黒き英雄に向けられた、イーピゲネイアの両腕から閃光が迸(ほどばし)る。
「『ペレアイホヌア』ッ!!」
ハウメアが叫んだ。
彼女の両手には巨大な手袋がはめられていて、攻撃をはじき返す。
「それがキミのチューナーか、ハウメア」
「まあね。これで何とかなるか解らないケド、危ないから下がってて」
ハウメアが茶色のドレッドヘアを振り乱し、攻勢に転じる。
「お願いだから、何とかなってェ!」
太い指のそれぞれから火炎弾を打ち出し、弾幕を形成する褐色の肌の少女。
「これしきの攻撃、わたくしには……ム?」
「今だ、指令室から逃げて!」
弾幕を維持しながら、後退するハウメア。
「しゃ~なしだな。ここは引くとするぜ」
真央のカエサル・ナックラーが、ボクたちが入って来た入り口扉を破壊する。
「軌道エレベーターを破壊して、そこから下に降りよう」
「破壊しなくても、乗っていけばいいんじゃないですか」
隣を走る、セノンが言った。
「彼女が言っていただろ。この小惑星の全ては、AIやアーキテクターが支配しているんだ」
「エレベーターなんかに乗ったら、閉じ込められちゃうってコトですかぁ!?」
「オッラァ、唸れカエサル!!」
真央の左フックが、エレベータの分厚い扉を破壊する。
「ここは小惑星の中央だ。少しは降りられるだろう」
「成る程。ここは本来、無重力の領域。わたしのチューナーで、水のロープを創れば……」
ヴァルナのアクア・エクスキュートが、エレベーターの壁面に固定された。
「よし、これで脱出できるな。だけど、街に降りるのは危険……」
その時、閃光が煌めく。
「ぐわあッ!?」
ボクの右頬から、鮮血が噴き出した。
「おじいちゃんッ!?」
「大丈夫か、艦長!」
「ああ……なんとか……な」
ボクは血の滴る頬を押さえながら、来た方向を見る。
「そう易々と、逃げ切れるとでも思ったのですか?」
破壊されているとは言え、分厚い金属の扉を易々と捻じ切るイーピゲネイア。
「わたくしたちアーキテクターは、人間の手によって生み出されました。ですが、主と敬愛した人間は、余りに愚かだったのです」
爆炎の中から迫りくる、金髪の女神。
「人間が神を冒涜し続けたように、アーキテクターも人間を『狩る』としましょう……」
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