トロイの木馬の正体
深淵の宇宙に、煌めく閃光。
ワープ航法と言う未知の技術を駆使して送り込まれた、グリーク・インフレイム社の4個艦隊。
巨大な緑色の艦影たちが、規律正しく動いて陣形を変える。
「AIによって統治され、一糸乱れず展開される艦隊……か」
二十一世紀でさえ、その兆候はあった。
巨大な緑色の戦艦や巡洋艦が、MVSクロノ・カイロスに向け主砲を一斉斉射する。
艦隊中央部に配備された空母たちからも、次々に赤い艦載機が射出されていた。
「26人のアマゾネスと、ボクの60人の娘たちが駆るサブスタンサー以外は、戦艦も空母も艦載機も全て、無人で運用されているのか」
人の手を介さず、AIたち独自の判断でされる軍事行動。
「AIたちによって、勝手に行なわれる戦争……もし、彼らが……」
ボクは、背中が凍り付くような感覚を覚えた。
「宇宙斗艦長」
野太く威圧する声が、ボクの名を呼んだ。
「このパトロクロスが既に堕ちているとは、どういった意図の発言でしょうかな?」
トロイア・クラッシック社のデイフォブス=プリアモス代表が、ギリシャ彫刻のように堂々と立ち腕を組んでボクを睨みつける。
「彼奴(きゃつ)ら、グリーク・インフレイム社の艦隊などは、この宙域に向かっている2個艦隊と挟撃すれば撃滅できるハズ」
「その2個艦隊だケドよ。指令室のレーダー範囲に、入って来てるみてーだぜ」
「なんだと、それは本当か?」
マケマケこと、真央=ケイトハルト・マッケンジーに詰め寄る黒き英雄。
「でも、動きがおかしい……」
「敵艦隊を挟撃するどころか、グリーク・インフレイム社の4個艦隊と合流するコースを取っているよ」
「彼奴らは……既に我が方の艦隊を、手中に収めて……」
焦燥が顔ににじみ出る、デイフォブス。
その時、再び指令室が激しく揺れた。
「きゃああッ!」
「大丈夫か、セノン」
シートにベルトで固定されたままのボクは、飛んできたセノンの身体を受け止める。
「まだ艦隊戦が、完全に収束したワケじゃ無いんだ」
「ゴメンなさいですゥ」
申し訳なさそうに、上目遣いでボクを見る栗毛の少女。
「でも、今の衝撃は何が起きた!?」
するとモニターの一つに、アッシュブロンドの男の映像が映る。
「オイ、艦長よ。MVSクロノ・カイロスのフォログラムが、トゥランのアフォロ・ヴェーナーを送り付けて来やがった」
「本当か、プリズナー」
「ああ、こんな状況下で、やってくれるぜ」
「そうか……ノルニール・スカラ」
優秀な副官は、ボクなど居なくても最良の選択をし、実行すてくれる。
「艦長、急いで宇宙港に向かって。そこで全員を回収して、艦に戻るわ」
美しき巨大なホタテ貝に乗るトゥランが、ボクに指示を出す。
「艦長は、艦に戻られるのですか」
「ええ、デイフォボス代表はどうされます」
「わ、わたしですか……そうですな……グリーク・インフレイム社の者と、今後の和平交渉を……」
黒き英雄に問いかけたが、彼が取れる選択肢は多く無いように見えた。
「とにかく、ボクたちは急ごう。今は一刻も早く艦に戻って……」
「そうは……させませんよ……」
ボクの行動を遮るように、美しい声が響く。
「貴方は人間にしては、適切な判断を降せるのですね……宇宙斗艦長」
ボクの前に、美しい金色の髪を宙空に漂わせながら語りかける少女。
「こ、これは一体、どう言うコトですかな!?」
「まだ解りませんか……こう言うコトです」
「ガハっ!!?」
少女の手から放たれた閃光が、英雄の立派な体躯を貫いた。
「ど、どうして貴女が……おじいちゃん、どう言うコトですか!?」
セノンが、ボクにしがみつく。
「彼女が、『トロイの木馬』の正体さ……そうですよね」
ボクは、金髪の少女に問いかける。
「イーピゲネイアさん」
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