ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第20話

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侵入者

「久慈樹社長が言っていてな。キミたちの家庭は……」

 ボクは、それ以上踏み込んで良いのか迷った。
瀬堂 癒魅亜は、ボクの言葉で心を閉ざしてしまったからだ。

「そうっスねえ。ウチも、ご多分に漏れずってトコっスね」
 地下鉄の出口の最上段で、立ち止まったボクを追い抜く天棲 照観屡。

「ウチの両親は、株とかFX、不動産の投資家だったんスよ」
 三つ編みお下げの少女の言葉は、過去形だった。

「億り人なんて言われるくらいに、資産が増えた時もあったっスね。母ちゃんの実家が寅巳不動産だったんで、お金があった時は派手に店舗を拡大していったんスよ」

「プニプニ不動産か、そう言えばローカル局でCMをやっていたような」
「全盛期は、13店舗もあったんスよ。それが不況の煽りと、親の借金の担保に土地を入れてたモンだから、今残ってるのは2店舗だけっス」

「そうか。あの不況は酷かったものな。大学生だったボクの周りでも、株で儲けて派手に豪遊してるヤツがいたケド、株が大暴落してからは質素な生活に戻っていたよ」

「戻れただけ、マシかも知れないっスね。ウチは両親が離婚して、それっきりっス」
 それから元気な商売人の女の子は、口数を減らした。

「ここが、件(くだん)の物件っスよ」
 テミルが白い家の前に立った。
家は2階建てで、お洒落な赤い西洋レンガの屋根をしている。

「ちょっと待ってくれ。こ、この一戸建てが、家賃5万7千円!?」
「まあ母ちゃんが、住む予定も無いのに買った物件っスからね。元は芸能人一家が住んでたらしいっス」

 テミルは、人差し指に引っかけた鍵の束を、グルグルと回し始めた。

「住む予定も無いのに、家を買ったのか?」
「こーゆー不動産ってのは、投資の対象でもあるんスよ。ここはウチが直で持ってる物件っスけど、不動産のオーナーさんに頼まれて、借主を探す場合もあるっス」

 テミルは、鍵の束の一つをドアの鍵穴に差し込む。

「ア、アレ、開いてるっス!?」
「鍵がか。どう言うコトだ?」
「それ、こっちが聞きたいっスよ。前に入った担当者が、締め忘れたんスかねえ」

 すると、家の中からコトリと音が聞こえた。

「中に誰か居るのか?」
「マ、マジっスか。野良ネコじゃないんスか!?」
「さあ、入ってみるか」

 ボクは、用心しながらドアを開ける。
テミルは、ボクの左腕にへばりついて来た。

「ヨソの不動産屋の話じゃ、持ち物件の中が暴走族の溜まり場になってたって聞くっス」
「だけど、家の中はキレイなモンだぞ。荒らされた形跡も無い」

 ボクは、リビングらしき部屋の扉を開ける。
すると物音がして、誰かがソファーの影に隠れた。

「や、やっぱ誰か居るっス。警察に通報を……」
 慌ててスマホを取り出す、テミル。

「ちょ、ちょっと待ちなさい、テミル!」
 少女の声が、ソファーの向こうから聞こえた。

「うわあ、完全に誰か居るっスゥ!」
「落ち着け、テミル。今、お前の名前を呼んだぞ」
「え……なんでわたしの名前を、知ってるっスか?」

「そ、それは……」
「聞き覚えのある声だな」

「まさか、先生まで来ていらっしゃるなんて。お姉さま、どう致しましょう」
「こうなってしまっては、観念する他ありませんわ」

 グラマラスな二人の少女が、ソファの向こうで立ち上がる。
クルクルと巻いた水色の髪に、桜色の瞳をした双子姉妹の姿がそこにあった。

「キミは……いや、キミたちは」
「ア、アロア氏にメロエ氏。ど、どうしてお二人が、ここに?」
 ボクの背中から、顔だけ出したテミルが言った。

「それはここが元は、二人の家だったからじゃないかな」
 大きく開いた窓からは光が差し込み、リビングのテーブルに木の影を落とす。

「ど、どうして先生が、それをご存じなのです」
 双子の姉であるアロアの自信が、僅かに揺らいだ。

 

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