悲劇の始まり
「お、おじいちゃん。一体、何が起きたんでしょうか!?」
小惑星パトロクロスの内部にいるボクたちには、今の状況が解からない。
ボクは咄嗟に、周りの状況を確認した。
地面が揺れている。
街の人が立っていられないくらいの振動が、何度も襲っていた。
「地球で起こるような地震じゃないし、恐らくデブリの衝突でもない」
すると、前を歩いていた三人の内、サックスブルーの短髪の少女が地面に伏せながら振り返る。
「確かにここは、小惑星の内側を繰り抜いて作られた街だ。地球みたいな岩盤(プレート)同士の歪みや、火山由来の地震は発生しないケドよ……」
「どうして、デブリの衝突でないって言える?」
「デブリに関しては、この小惑星のAIが発見し、軌道を予測して対処してるんじゃないのか?」
「まあ、そうだね……なる程」
水色のセミロングの髪の少女は、小さく頷いた。
「それじゃあ宇宙斗艦長は、この揺れの原因が解かるのかい。残念ながら、コミュニケーションリングに情報は伝わってないんだ」
最後の一人である、ドレッドヘアの少女に問いかけられる。
「何者かが、惑星の外装を攻撃しているんだ」
「な、何者かって、誰なんですか?」
「一番に考えられるのは、ギリシャ群の軍事企業、グリーク・インフレイム社の艦隊だな」
「それこそパトロクロスのAIが、接近を許すハズないんじゃないか?」
「だけど、電子戦に負けた可能性もある……」
「でも、接近に気付かないなんてあるのかな?」
真央とヴァルナ、ハウメアの会話は、自問自答としてボクの脳内でも起きていた。
「とにかく、今は急いで艦に戻ろう。考えるのはその後だ」
ボクはそう判断したものの、街の中のあらゆる場所に防護壁が張り巡らされ、帰還の妨げとなる。
「クッソ、こっちも壁で塞がれちまってる」
「こっちもダメ……」
「区画(ブロック)ごとに、完全に遮断されてるよ、どうする!?」
「せめて、トゥランでもいてくれたらな」
「ご、ごめんなさい、役に立てなくて」
栗色のクワトロテールの少女が、申し訳なさそうに俯く。
「別にセノンが謝るコトじゃ、ないだろ」
「でも、もうお手上げだね……」
「こんな分厚い壁に阻まれちゃ、攻撃が止むまで待つしか……」
「いや。身体が壁を通り抜けられなくても、情報なら可能なハズだ」
「そ、そうですね。コミュニケーションリングで、手あたり次第アクセスしてみます」
セノンの言葉に、彼女の三人の友人も頷いた。
「宇宙斗艦長。クロノ・カイロスには無理だったケド、この惑星の指令室に繋がったぜ」
「デイフォブス代表が、会いたがってる」
「今、指令室までの経路を送ってもらったよ」
「そうか。ナビゲートは任せる、真央」
「マケマケ、お願いなのです」
「ヘイヘイ、任されたぜ」
真央・ケイトハルト・マッケンジーに先導され、ボクたち五人は揺れる小惑星の街を苦労しながら進み、パトロクロスの指令室へと辿り着いく。
指令室は、パトロクロスの内側に築かれた街を照らす、人工太陽の内部に存在した。
「お待ちしておりました、宇宙斗艦長」
黒きギリシャ民族衣装を着た背の高い男が、軌道エレベーターを降りたボクたちを出迎える。
「デイフォブス代表。現在の状況を教えていただけますか?」
完全な球体の内部の部屋は、石レンガ造りの城塞都市を訪仏とさせるデザインになっていた。
「現在、グリーク・インフレイム社の赤き艦隊が、我らがパトロクロスを取り囲んで砲撃を仕掛けてきているのです」
「艦隊の接近には、気付かなかったのですか?」
ボクの問いかけに、黒き英雄の後ろに控えていた少女が答える。
「ギリシャ群の約一万隻に及ぶ艦隊が、いきなりパトロクロスの周囲に現れたのです」
「そ、それは、ホントなんですか!?」
「はい……」
イーピゲネイアは、静かに瞳を閉じた。
前へ | 目次 | 次へ |