ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第05章・20話

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歪められた世界

「それにしても、可笑しな話だよな」

「何がですか、おじいちゃん?」
 店を出ると、新たな服に着替えたセノンが、ボクの顔を覗き込んできた。

「人は働かなくても暮らせるのに、わざわざ働きたがる人もいるんだってのがね」
「おじいちゃんの時代は、全員がお金の為に働いていたんですか?」
「う~ん、そう言われると違うな」

「じゃあ今の時代だって、同じじゃないかな」
 真央・ケイトハルト・マッケンジーが言った。
「ただ人生を無作為に過ごすよりも、有意義に過ごしたいって思うモンじゃね?」

「それに今は、人生200年時代。何もしなけりゃヒマ」
「そ、そうなのか。みんな、長生きになったんだなあ」

「千年も生きた人に、言われても……」
 冷めた目で、ボクを見つめるヴァルナ。

「ウウム、それもそうか。殆ど眠っていたとは言え、千年も前に生まれたんだからな」
「おじいちゃん、自覚無いですねえ」
 セノンが言った通り、自覚なんて殆ど無い。

「まあアタシたちが、働かなくても暮せるのは、アーキテクターを始めとしたAIたちが、替わりに働いてくれてるからなんだケドね」
 ドレッドヘアの少女が言った。

「そう……だよな、ハウメア」
 プリズナーの、『AIによって、人間が生かされている世界』と言う言葉が、脳裏を過ぎる。

「考えてみれば、AIたちは人間の奴隷みたいなモノなんだな」

「奴隷……か」
「ん、どうしたんだ」
 ボクの言葉に反応した、ハウメア。

「いや、ウチも先祖を遡れば、ハワイの先住民族の血を引いているらしいんだ」
「ハワイって確か、悪辣で狡猾なアメリカによって、強引に併合されたんだよな」

「そう言えばセノンも、アメリカは酷い国だって言ってたケド?」
「そりゃあ酷い国だろ。ヒトラーの時代のナチスと並んで、悪名が記録されてるぜ」
「ええ、そこまで!?」

「金と軍事力で世界を支配し、人間に対して初めて核兵器を使用した国なんだろ」
「ま、まあそうだケド……国が亡ぶと、ここまで評価が変わるモノなのか」
 真央の言葉に、改めて歴史の恐ろしさを知った。

「逆に聞きたいんですケド、おじいちゃんの目から見たアメリカって、どんな国だったんですか?」
「そ、そうだな。日本が戦争で負けて以来、比較的良好な関係だったと思うよ」
「ウ、ウソだろ。日本って、アメリカの属国だったんじゃ無いのか?」

「そう揶揄するネット民も大勢いたケド、実際は同盟国だ。そこまで酷い関係じゃない」
「核まで撃ち込まれたのに、よくそんな関係でいられたなあ!」
「真央も、日系の血を引いているんだろ。気持ちは解からなくもないが……」

「じゃあなんで、アメリカは悪の枢軸国なんて評価されてるの?」
「それはこっちが聞きたいよ、セノン」
 ……とは言え、可能性は直ぐに思い浮かんだ。

「アメリカが悪である必要が、あった……」
「え?」

「アメリカに替わって、世界を支配した国家にはね」
「正確には、国家じゃない……」
 ヴァルナが、間違いを指摘する。

「そっか。その頃って丁度、旧来の国家による支配体制が崩れた時代だ」
「それからの地球は、巨大企業が人々を支配する時代になる……」

「大規模な経済危機によって、それまでの通貨の価値が暴落し、新たに巨大企業が生み出した電子マネーが世界の経済を支配したんだ」

 三人のオペレーター娘は、勝者によって歪められた歴史を語った。

 その時の巨大企業が更なる成長を遂げ、やがて宇宙に進出して、企業国家として生まれ変わるんだ。

「未来と過去が……繋がった」
 ボクは今、企業国家の小惑星に立っている。

 そして今、未来さえ変わろうとしていた。

「わああ、なんだ!?」
 突然の激しい揺れが、ボクたちを襲う。

「じ、地震か!?」
「何らかの天体かデブリが、ぶつかったんじゃ?」

 このとき、小惑星パトロクロスの周囲を、真っ赤な宇宙戦艦や宇宙空母の群れが取り囲んでいた。

 

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