ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第13話

f:id:eitihinomoto:20190817152737p:plain

閑静な住宅街の狂気

 『キア』こと可児津 姫杏の家は、閑静な住宅街にあった。

「立派な家が、建ち並んでる……ケド、空き家も多いな」
 モダンな一戸建て住宅の多くは、生活感もあってキレイな車が車庫に留まっている。
けれども何件かは、真新しい住宅の庭を雑草が支配し始めていた。

「これも、世の流れか。教民法やユークリッドの台頭によって、多くの失職者が出たからな」
 荒れ果てた家々の主の姿を想像しつつ、ボクはキアの家を探す。
ユミアが気を利かせて、プリントアウトしてくれた地図を見ながら。

「ここ……か。ここだな、間違いない」
 地図が示していた場所には、真新しい白い家が建っていた。

「窓が割れて、段ボールで塞がれている。キアのお父さんが、やったのか……」
 それとも、他の原因で割れたのかも知れない。

 ボクは、ご都合主義な後者であるコトを祈りつつ、インターフォンを鳴らした。

「返事が無い。ドアにカギはかかってないし、留守じゃないと思うが」
 しばらく待つと、ドアが僅かに開く。

 家の玄関は薄暗く、ドアの隙間から人の気配がした。
濁った黄色い瞳が、ボクを恨めしそうに見上げている。

「……」
 思わず、固唾を飲んだ。

「なんだ、テメーわ。ウチになんの用だ?」
 ドアが開くと、中年の男が靴箱に寄りかかりながら立っていた。

「ボクは……」
「見たトコ、児童相談所のヤツらじゃねえみてェだな」
 男が口を開くと、アルコールの臭気が漂う。

「可児津 姫杏さんの、お父さんでしょうか。ボクは、キアさんの担任の……」
 ボクは、男が右手にぶら下げていたビール瓶を見て、言葉を止めた。

 茶色いガラス瓶には、ベットリと血がこびり付いていたのだ。

「これか……イヒヒ、これね」
 男は、うすら笑いを浮かべる。

「別に、なんでもねェよ。ただちィとばかし娘が生意気言うんで、しばいてやったんですわ」
 男は、相当に酔っていた。
ボクは泥酔した男を払い除け、土足で男の家に上がり込む。

「オイ、テメーなに勝手に人の家上がってんだぁ、このヤロォ」
 背後で、酔っぱらいが喚き散らしているのが聞こえる。

「キア、どこだ。居るんなら、返事をしろ!」
 大声で呼びかけると、扉の向こうで微かな声が聞こえた気がした。

「キア、そこに居る……のか!?」
 扉の向こうは台所で、電気は消してある。
慌てて、証明のスイッチをオンにした。

 テーブルの上には、食べかけのスルメや焼き鳥の串が、無造作に散らばっている。
チャックのお洒落な床には、焼酎やウイスキーの空き瓶やペットボトルが転がっていた。

「せ、先生……」
「お、お姉ちゃんが……」
 テーブルの向こうから、幼い声が聞こえた。

 聞き覚えのある声。
キアのバンドのメンバーでもある、妹たちの誰かだ。
テーブルを回り込もうとするものの、冷蔵庫の中身が床にぶち捲けられていて邪魔をする。

「……いやァ」「ひえェ」
 なんとかシンクの前に辿り着くと、座り込んだ二人の少女が互いに抱き合っていた。
彼女たちは怯えた目で、ボクを見上げている。

「確か、実杏ちゃんと理杏ちゃんだったね。キアは、どこに……」
 キアの双子の妹である、二人の小学生は冷蔵庫を指さす。
ボクのアパートには置け無そうもない、巨大で高機能なタイプだ。

「ま、まさか……ウソだろ!?」
 冷蔵庫の扉が、僅かに開いていた。
そこから、光と共に赤い髪の毛が漏れ出ている。

「キアッ!!?」
 扉を開けると、悪夢のような光景が詰まっていた。

 巨箱の中に、可児津 姫杏と、妹で中学生の詩杏が押し込められている。
二人の少女の顔は、人形のように真っ白だった。

「わああ、キア、シア!!」
 二人を中から引きずり出す。
この時のボクはもう、現実なのか夢なのかの区別もつかない状態だった。

 

 前へ   目次   次へ