宙を舞う少女たち
「ギリシャ群の艦隊がワープして、この宙域に現れたと?」
ボクの問いかけに、デイフォブス=プリアモス代表が頷く。
「ワープ技術なんて、未だ確立されてねハズなのに……」
「それを艦隊規模で、装備してる……?」
「一万隻の艦艇全てにって、ウソでしょ!?」
「残念ながら、本当と見て間違いはないでしょう」
真央たちの疑問に、イーピゲネイアが答えた。
「それにしてもヤツらめ、とんでもない技術を開発したモノです」
黒き英雄が懸念を示す間にも、指令室が何度も大きな揺れに襲われる。
「現在、我が軍も艦隊を出して応戦をしておりますが、宇宙港を二つ破壊されてしまいました。一個艦隊の2千隻しか、展開できておりません」
亡き会長の孫娘も、揺れる指令室に踏みとどまってくれていた。
「MVSクロノ・カイロスと、連絡を取れませんか。最悪の事態になる前に、なんとかしないと」
「最悪の事態って、なんですか。おじいちゃん」
「ワープ技術があって、艦隊すらも簡単にワープさせられるなら……」
「核ミサイルや光子ミサイル、化学兵器や生物兵器などを、小惑星パトロクロスの内部に、ワープさせて来る可能性があると言われるのですな」
表情を歪める、デイフォブ代表。
「マ、マジかよ。そんなのが、中の街で爆発しちまったらどうなる!?」
「この小惑星ごと、木っ端みじんに吹っ飛ぶか……」
「街の住人がガスやウィルスで、大勢死ぬかもだよ」
「は、早く艦に、戻らないとなのです!」
少し前まで街でショッピングを愉しんでいた少女たちも、血相が変わっている。
「そうだな、セノン。艦に戻れば、クロノ・カイロス旗下の二個艦隊も、動かせる可能性があります。それがダメでも、艦内には敵に対抗しうる装備が……」
「それが無理なのです」
イーピゲネイアが、とつぜんボクの言葉を遮った。
「無理とは、どう言うコトでしょうか」
「MVSクロノ・カイロスは、ギリシャ群に破壊されたポートの一つに、停泊しておりましてな。そこを集中的に、狙ってきている様なのです」
「現在、ポートで火災や爆発が発生し、艦とは連絡が取れな……きゃああ!?」
極度の衝撃が、イーピゲネイアの華奢な身体を吹き飛ばす。
美しいプラチナブロンドの長い髪が、ボクの懐に飛び込んできた。
「グハッ!」
少女の身体を受け止めたまま、激しく壁に叩きつけられる。
壁に弾かれたものの、重力が制御されたのか衝撃が緩み、彼女を抱えたまま床に着地した。
「フウ、未来の重力制御てのは、やっぱスゴ……いなッ!?」
一息付いたボクが上を見上げると、四人の少女が宙を舞っている。
「うわあ、上見るなあ!」
ボーイッシュな少女の、白地にグレーのピンストライプの布。
「あっち向け」
セミロングの無口な少女の、水色に白ドットの布。
「私服に着替えたのが、裏目にィィ」
ドレッドヘアの少女の、レモン色とオレンジのチェック柄の布。
「おじいちゃんの、えっちぃ!!」
栗色のクワトロテールの女の子の、白地にピンクのウサギドットの布。
可愛らしいお尻を覆う四枚の布切れが、ボクの眼にしっかりと焼きついた。
「そ、その、アレだ。別に何も見てないと言うか。アハハ」
スカートを押さえ着地した、真央やヴァルナ、ハウメアは、ボクに冷たい視線を向ける。
「なにがアハハ……だよ、まったく」
「しっかりと見てた」
「もう、信じらんないよ」
「それにおじいちゃん。いつまでイーピゲネイアさんを、抱えてる気ですか!」
「ふえ……うわあ、ゴメン!?」
ボクは慌てて、彼女を開放した。
「も、申しワケございません、宇宙斗艦長」
「イ、イヤ、ぜんぜん平気だから」
「もう、おじいちゃんったら、動揺しちゃって」
「べ、別に動揺してなんか……」
動揺と言うよりボクは、少しだけ違和感を感じていた。
受け止めた少女の体温が、低く感じられた気がしたからだ。
「どうやら重力制御システムが破壊され、衝撃の中和が効かなくなっている様です。イーピゲネイア様も、身体を椅子に固定して下さい」
「わ、わかりました」
ボクたちは全員、黒き英雄の指示に従った。
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