ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第05章・29話

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認めたくない真実

「な、なんのご冗談……ですかな」
 デイフォボス代表の脇腹からは、ドクトクと赤い液体が溢れ出る。

「イーピゲネイア様が、トロイの木馬などと……そんなコトが……あるハズ……」
 それでも尚、現実を受け入れられない黒き英雄。

「まったく、なんと愚かなのでしょうね。人間と言う存在は」
 イーピゲネイアは、吐き捨てる言うに言った。

「その命が消えようとしているのに、まだ現実を把握できていないのですか?」
 ターコイズブルーの瞳には、司令室の床に伏すデイフォボスの姿が映っている。

「説明してくれよ、宇宙斗艦長。イーピゲネイアさんは、ギリシャ群からのスパイなのか?」
「恐らくな、真央」
 ボクはまず、彼女の過去を辿ってみる。

「かつて、ギリシャ群から小惑星ごと宇宙の長距離移動を果たし、このトロヤ群へと来訪した英雄、アガメムノン。その娘が、彼女だ」
 イーピゲネイアに、指令室にいた全員の注目が集まった。

「オイ、ちょっと待てよ。それじゃあ、トロイの木馬の正体は……」
 真央の額から、汗が滴る。

「ギリシャ群から、トロヤ群への宇宙航海を行った小惑星アガメムノン。それ自体が、『トロイの木馬』だったんじゃないかな?」

「そ、そんな……」
「まさか、そんなコトって!?」
 ヴァルナとハウメアは互いに抱き合い、女神の様に美しい少女の顔色を伺った。

「フッ、人間にしては頭が切れますね」
 イーピゲネイアは、美しい金髪を靡かせ宙を舞う。

「バ、バカな……それでは、このわたしは……」
 黒き英雄は、血に濡れた手で頭を抱えてうずくまった。
「そうとも知らず、ギリシャ群からの来訪者を主と崇め……あまつさえ……」

「デイフォボス、貴方はよく尽くしてくれましたね。ですが、貴方の役目は終わりました」
 金髪の美少女は、発光する右手を瀕死の英雄に向ける。

「イーピゲネイアさん、止めて下さい!」
 栗色の少女がボクの腕から抜け出し、黒き英雄の前に立った。

「なんなのです。お前も、死にたいのですか?」
「どうして、そんなに酷いコトを言うの。デイフォボスさんは、貴女のコトを……」

「なる程……この男の忠誠は、アガメムノンの血脈を欲っしてのコトですか」
「違う、そうじゃ無いよ!」
 セノンの涙が、宙空を舞う。

「止めるんだ、セノン。下がれ」
「で、でも、おじいちゃん」
 ボクはセノンを抱えると、後ろにステップした。

「残念だけど、彼女は人間では無いんだ」
「え……ウソ」
 セノンの小さな腕と胸が、ボクの腕を締め付ける。

「お前もホントは、気付いてるだろ」
「人間は、手から閃光を放ったりしない……」
「彼女は、アーキテクター(機構人形)だよ、セノン」

 真央とヴァルナとハウメアも、シートベルトを外して席を立つと、ボクの後ろに回り込んだ。

「気を付けろよ、みんな。彼女の戦闘力は、未知数だ」

「ああ、解ってるぜ、宇宙斗艦長」
 真央=ケイトハルト・マッケンジーは、スカートのポケットから何かを取り出す。

「今はこっちにも、『チューナー』があるんだ。好きにやらせるかよ」
 メリケンサックのようなモノを、人差し指でクルクルと回し、両拳にハメた。

「それがチューナーか。そう言えば、フォボスのプラント事故の時に言ってたな」

「チューナーは、人間の身体機能に応じて作られる武器でさ。アタシの『カエサル・ナックラー』は、この通り格闘型のチューナーなんだ」
 真央が、チューナーをハメた拳を胸の前で合わせると、激しい電磁放電が迸る(ほとばしる)。

「アーキテクターを前に、パンクラティオンでも始める気ですか?」
 パンクラティオンとは、古代ギリシャの格闘技だ。

「それも、面白そうだな」
 真央は、ニッと笑った。

 

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