闇の向こうの敵
「交戦が確認されるのは、MVSクロノ・カイロスが係留されていた宇宙港周辺のみですな」
「攻撃を受けていたもう一つの宇宙港も、戦闘が収まっているようです」
指令室に座っていた、デイフォブス=プリアモス代表とイーピゲネイアが言った。
「やっぱ、クロノ・カイロスのみを標的にしてんのかよ」
「艦は、無事なのでしょうか……」
「簡単にやられるコトは無いと思うケド」
三人のオペレーターは、自分たちの艦の心配をする。
けれども現実的には、艦は彼女たちや艦長であるボクが居なくても、機能するだろう。
「宇宙港の映像は、出せませんか?」
「どうやら敵は、電子戦に入っている模様なのですよ」
「カメラも含めたこちらの通信網に、入り込んで来ているのです」
それは指令室も同じであり、AIによって上げられる情報を、人間はただ見ているだけだ。
「今いる部屋を指令室と呼ぶべきか、躊躇(ためら)ってしまうな……」
「もはや人間など居なくとも、世界は機能するのですよ。宇宙斗艦長」
ボクの心を読み解いたかの様に、イーピゲネイアが微笑む。
「……い……聞こえる……こっち……」
その時、聞き覚えのある声が指令室に響いた。
「その声……プリズナーか!?」
「ああ……どうやら……だな」
けれども、聞こえる声は途切れ途切れだ。
「何とかなりませんか、デイフォブス代表」
「ええ、やってみましょう。聞こえる音声を、鮮明にしてくれ」
AIに、ただ命令するだけのディフォボス司令官。
「なんとか妨害(ジャミング)をくぐり抜けられたわ、プリズナー」
「流石だぜ、トゥラン」
「どうやら先方でも、同じ作業を試みていたようですな」
「ええ……」
作業を行ったのは、どちらも人間ではないのだが。
「プリズナー、そっちはどこに居る。クロノ・カイロスか?」
「いや、艦には戻ってねえってか、敵さんの攻撃が激し過ぎて戻れねえ」
「艦は無事なのか。クロノ・カイロスは……」
「ああ。元々デカすぎて、宇宙港に入れなかったのが幸いしたな。パトロクロスを離れて、派手に敵艦隊と交戦してやがるぜ」
「たった一隻でか!?」
「どんだけご都合主義な艦だって、呆れるぜ」
プリズナーの言葉に、ボクはふと昔の名作アニメを思い出した。
「どうやら彼らは、宇宙港の付近に居るようですな」
「そろそろ映像、出せませんか?」
「わたしのカメラ映像、そっちに送るわよ?」
「トゥランか。頼む」
「艦長だからって、オレの相棒に馴れ馴れしくすんな」
「ハイハイ、アンタはどいていて。邪魔よ」
映像はまだだったが、向こうの光景は何となく想像がつく。
「あ、おじいちゃん。メインモニターに映像が!」
「パトロクロスのカメラも、何とかジャミングから回復しました」
トゥランからの映像と同時に、宇宙港近辺の監視カメラ網も回復した。
「監視カメラも、クロノ・カイロスに向けられますか?」
「はい、やってみましょう」
イーピゲネイアはAIに指示を出し、幾つかあるカメラは交戦中の艦を捉える。
「これはまた……4個艦隊を相手に、たった一隻で戦っておりますな」
映像を見ると、娘たちのサブスタンサーも出撃していた。
「敵艦隊の火力を集中させれば、パトロクロスは堕とせるでしょうが、その気配は無さそうですね」
「承服しかねますが、現実は宇宙斗艦長の仰る通りでしょうな」
「敵は一体、何者なのでしょうか?」
ボクは、指令室に居る皆に問いかける。
「どう言う意味ですかな、艦長」
「言葉通りの意味です」
「でしたら、敵はグリーク・インフレイム社の艦隊……」
「本当に、そうでしょうか?」
ボクは、イーピゲネイアの言葉を遮った。
「何を仰っているのでしょう。敵の艦隊は、紛れも無くグリーク・インフレイム社の……」
「だったら何故、敵艦隊はパトロクロスを攻撃しないのでしょう?」
「ウウム、言われてみれば確かに」
黒き英雄は、しばらく考え込んだ後に口を開く。
我らが企業国家、トロイア・クラッシック社と、グリーク・インフレイム社のこれまでの関係性を見れば、パトロクロスを攻撃しないのは明らかに不自然」
ボクも、そこに違和感を感じていた。
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