二人のアマゾネスの女王
「そう言えば、あの傲慢なアキレウスも、これだけ自軍に有利な戦況にも関わらず、何のコンタクトもありませんからな」
「はい。彼とはモニター越しに話しただけですが、嫌味の一つも言って来るような性格に感じました」
「フッ、ヤツならそうあるべきでしょうな」
その時、モニターのもう半分に映っていた英雄は、口元を緩めた。
「可笑しな話ですね。では宇宙斗艦長は、敵は誰だとお考えなのですか?」
イーピゲネイアが、その美しい美貌をボクに向ける。
「まだはっきりとは、解りません。ですが、早急に艦に戻ろうと考えています」
ボクの脳裏に浮かんでいたのは、『時の魔女』の存在だった。
「つっても艦長。クロノ・カイロスは、敵の4個艦隊と交戦中だぜ」
「今は、連絡も取れない状況……」
「どうやって敵の砲火に巻き込まれずに、戻るって言うんだい」
「トゥラン、何とか艦と通信は出来ないか?」
「まだ宇宙空間は、敵のジャミングの嵐なのですよ。通信などとても……」
イーピゲネイアの、美しいプラチナブロンドの長髪が宙に揺れる。
「プリズナーの相棒であるトゥランは、優秀なアーキテクターです」
「ええ、とにかくやってみるわ」
ボクは、彼女の性能にかけてみた。
それからボクは5分間、MVSクロノ・カイロスと、グリーク・インフレイム社の4艦隊との戦闘を、指令室から指をくわえて見守る。
「流石に劣勢だな。娘たちも、よく戦ってくれているが、無茶はしてくれるなよ……」
「旗艦の指揮下に入った、ペンテシレイアと十二人のアマゾネスたちのキュクロプス・サブスタンサーも、戦列に加わっておるようですな」
「ペンテシレイアの黄金のサブスタンサーは、スキュティア・アマゾーネアと言います」
「アマゾネスの女王らしく、ランスと大きなラウンドシールドで武装してますね」
「ランスはライフルとしても機能するほか、下半身のスカートが蛇腹状に伸びて敵を攻撃するのです」
「ボクたちも、下半身のスカートが巨大タコのような戦艦と、戦いましたが……」
大きさこそ異なれど、その戦い方はよく似ていた。
「十二人の部下たちの白いサブスタンサーは、ボリュステネ・アマゾー二アと言い、小型の三日月型シールドに、ソードやスピア、弓をモチーフにしたビームマシンガンで武装されております」
「イーピゲネイアさんは、女性なのに兵器に詳しいのですね」
それは偏見だろうと思いつつ、聞いてみた。
「ええ……父であるアガメムノンの、影響なのでしょうね」
金髪の少女は、表情を曇らせる。
「詳しいかどうかって、今の時代はあまり関係ないですよ。おじいちゃん」
「知識はその、首元のコミュニケーションリングに集約されているんだろ」
けれども、どうにも二十一世紀の感覚が抜けない。
「艦長。敵もサブスタンサーを、大量展開してきたみてーだぜ」
「艦の正面から、黄金のサブスタンサーに率いられた一軍が……」
「MVSクロノ・カイロスの対宙砲火を、突破しようとしてるよ!」
「あの黄金の機体、下半身がケンタウロスみたいになってますが、ペンテシレイアのサブスタンサーに似てませんか。率いている機体も、ほぼ同じ様な?」
「あの機体は、エポナス・アマゾーネア。ペンテシレイアの機体と同じく、アマゾーネアと称されるシリーズ機体ですから」
「同伴機のリューディア・アマゾー二アも、こちらの同伴機と大した差異はありませんな」
「どうしてそんなコトが?」
「エポナス・アマゾーネアは、ペンテシレイアの姉である、ヒッポリュテーの駆る機体だからです」
「そ、それじゃあ姉妹同士で、殺し合いをしようとしてるんですか?」
「歴史を振り換えれば、珍しくはありますまい」
「彼女たちのように、アマゾネスの名を冠する者は、火星からの移住者の血を引くのです」
イーピゲネイアは、含みのある笑みを浮かべる。
「戦を好むのも、当然だとは思われませんか?」
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