ワンオラクル
「トミン、マジあり得なくない?」
「不誠実な異性関係って、そりゃ七人も居ればね」
「そろそろ誰が好きなのか、はっきりさせて貰おうじゃない」
紫芭さんの占いに、怒り心頭の七人の女子高生。
「オ、オメーら、落ち着けって。これはなんの根拠も無い、占い……」
「占いとは、まったく根拠が無いワケじゃないさ」
涼しい顔でカードを切る柴芭さん。
「色々な国で多様な占いが行われ、国家の大事や王の後継者争い、戦争の是非すらも占いによって決められた歴史もあるんだ」
「柴芭さんが正しい!」
「トミンって、不誠実なトコあるよね」
「いくら女ばかりの家族だからって、女の扱いに慣れすぎだよ」
「占いの結果、失恋に破局……当たってるじゃん」
「黙れ、クロ。コイツが破局させてんじゃねえか」
苛立ちを隠せない、紅華さん。
「いや、それがキミの運命だったのさ」
「運命なんて降らねえぜ」
一触即発の、ピリピリした空気が流れる。
「さて、キミたちも占う約束だったね」
あ、そう言えばそうだった。
「好きなカードを、選んでくれたまえ」
左腕の上に、カードを扇形に並べる柴芭さん。
「ゲッ、選ぶのかよ?」
「ま、まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦というヤツだ」
ヘンな運勢が出ませんように!
ボクと、黒浪さんと杜都さんは、一斉にカードを引いた。
「黒浪 景季……キミのカードは、『愚者』(ザ・フール)だ」
「な、なんだってええぇぇぇーーーーー!?」
「ギャハハ、めっちゃ当たってんじゃんえか」
「だ、黙れ、ピンク頭。でも、反論できねえとこが悔しい」
「オメーも、カードを逆に持ってんな。逆位置ってヤツか?」
「ああ、そうだ。愚者の逆位置は、無計画、不安定、愚か」
「お、おま……そこまで言わなくてもおおおォォーーーーーーッ!!」
涙目で遠吠えする、黒狼。
「オ、オレは、『戦車』……タンクの逆位置か?」
「現代の戦車、タンクでは無いよ。チャリオッツ……古代ローマの戦争や闘技場などで使われた、馬に引かせる戦車のコトさ」
「そ、それで、意味はなんだ?」
「戦車の逆位置は、暴走、停止、混乱」
「ぼ、暴走、停止、混乱!?」
「自分の意思で決断できず、どう動いていいのか解らないから混乱し暴走してしまい、やがて力付きる……と言ったところかな」
「な、何やら、とてつもなく当たっている気がする」
目の前で青褪める、豆腐メンタルの杜都さん。
次はボクの番だ。
ど、どうしよう。
「キミのカードは、『太陽』(ザ・サン)……の逆位置だね」
やっぱ、カードが逆さだぁ。
「太陽の逆位置の意味は、暗黒、不健康、ネガティブ」
グハアッ!!?
「流石は、デッドエンド・ボーイズと言うべきか、全員が逆位置とは恐れ入ったよ」
いつの間にやら柴芭さんの右手に、ボクの名刺があった。
「それで……テメーのカードはなんだ?」
「占い師は、自らを占わないのが鉄則なんだ。キミが引いてくれたまえよ」
「はん。どうせカードを、仕込んでいるんだろうが」
紅華さんはカードをめくると、それを柴芭さんに見せる。
「フム。ボクのカードは、魔術師(マジシャン)……逆位置だ」
「なんだ、テメーだって逆位置じゃねえか」
「仕方ないさ、運命には抗えない」
「いいや。運命ってのは、自らの脚で蹴り跳ばすモンさ」
フットサル用のボールを、左足でキックする紅華さん。
「こうやってな、オラァ!!」
ボールは、扇形に広がったカードの真ん中を射抜き、散らばったカードが宙を舞う。
「ちょっとトミン、いくら何でも失礼よ」
「うるせえ、お前らは黙ってろ」
女性だからと言って、容赦はしない紅華さん。
「テメーのチームとは、決勝でないと当たらないみてえだな。柴芭 師直」
「そこで決着を付けようじゃないか、紅華 遠光」
二人は、互いに背を向けた。
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