ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第16話

 

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真夜中の病院

「それにしても、まだ深夜か」

 キアの手術が終わって、ボクは意外に時間が経ってないのに驚いた。

「まだ深夜と言うのも、可笑しなモノかもしれないが、もっと時間が過ぎていると思っていた……」
 それはボクにとって、悪夢に等しい時間だったからに、他ならない。

「とにかく、キアの手術が無事に終わって良かった。キミが来てくれたお陰かな……」
 ボクは、ボクの上着を羽織ったユミアに目を落とす。
両腕で抱えた、栗色の髪の少女の身体は、軽く暖かかった。

「ん……お兄……ちゃん」
「え?」
 夢でも見ているのか、ユミアの表情が歪んでいる。

「行っちゃ……やだ。お兄ちゃん」
 彼女にとって兄とは、倉崎 世叛に他ならない。

「キミにとって病院とは……あまり良い思い出のある場所じゃ、無いんだな」
 倉崎 世叛は、妹のためにユークリッドを創造し、世界の在り方を変えた。
そんな彼も、不治の病に冒され亡くなってしまう。

 エレベーターの前までやって来ると、窓から深夜の街が一望できた。

「深夜でも、まだあちこちで灯りが点いているな」
 何棟も並んだマンションや、作業を終えた工場も、小さな灯りで闇に浮かび上がっている。
ユミアの両足を支える左手を伸ばし、3階のボタンを押す。

「星空の下に、うっすらと遠くの山並みが見える。この街って、こんなに山々に囲まれていたのか」

「そう……以外ね。生まれてからずっと暮してきた街だけど、始めて知ったわ」
 顔の下から、可愛らしい少女の声がした。

「ユミア、起きていたのか?」
「……いいでしょ、別に」
 彼女は上目遣いで、頬を真っ赤に染めている。

「それより、降ろしてくれるかしら。わたしは、どこも悪くないのよ」
「あ、ああ。悪い」
 ボクはそっと、彼女を床へと降ろす。

「キアの手術……どうなったの?」
「成功したよ。キアは、生きている」
「そう、良かったわ」

 彼女は微笑んだ。
それは作られた笑顔などでは無く、心の底から溢れ出した笑顔だった。

「先生、3階のボタンが押してあるわよ。間違ってない?」
「いや、3階から渡り廊下を通って、別館に出るんだ。そこに、タクシーを呼んでもらっている」
「マスコミのヤツら、まだ外で張っているのかしら」

 エレベーターの扉が開くと、中は無人で白い正方形の空間が広がっている。
病人を担架ごと乗せられるスペースに、ボクたち二人だけが存在した。

「キアはまだ、集中治療室から出られないが、妹のシアちゃんは明日にも退院できる見込みだ」
「キアって、四人姉妹だったのね」
「ああ。双子の妹の、ミアちゃんとリアちゃんも、どうにかしてやりたいが」

「だったら、ウチに連れてくればいいじゃない」
「いいのか。更に人数が、増えるコトになるが」
「テニスサークルのコたちも、今じゃカワイイ妹分よ」

 エレベーターは指示した通りに3階で停止し、ドアを開ける。

「深夜の病院と言うのも、中々に気味の悪いシチュエーションだな」
 別館は本館に比べると設備も古く、蛍光灯も疎らで薄暗かった。

「おわッ!?」
 急にボクの左腕に、何かが巻き付いて来た。

「な、なんだよ、キミか。驚かすなよ」
「こ、怖がらせたのは、先生の方じゃない!」
 ボクの腕に、彼女の小さな膨らみが当たる。

「は、早く行きましょ」
「ホラーゲームとか、お化け屋敷とか、苦手な口か?」
「うっさい、いいから行くわよ」

 ボクの腕は、小柄な少女の手で強引に引かれ、真夜中の病棟を駆け抜けた。
旧病棟の1階まで降りると、出口にタクシーがドアを開け待っている。
ボクたちは、それに飛び乗った。

「それにしてもキミは、最初に遭った時はもっとお淑やかだった気がするが?」
「べ、別に今でもお淑やかよ」
 そうは思えない。

「そう言えば最初に遭った時は、お兄ちゃんじゃなく『お兄様』って呼んでいた……」
 手術が無事に終わり、気の緩んでいだボクは迂闊にも口を滑らせた。

 

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