アルカナ
「どうして女ってヤツは、占いなんて根拠の無いモンが好きなのかねェ」
紅華さんは喋りながらもずっと、フットサル用の小さめのボールをリフティングしている。
「トミン、酷くない!」
「紫芭さんの占い、すっごく当たるんだから」
「トミンも、占ってもらいなよ」
「くだんねえ。どうしてオレが……」
「まあそう言わずに。モノは試しと思ってどうだい?」
紫芭さんが、カードの何枚かを扇のように広げながら言った。
「しゃ~ねえ。なら、ついでだ。お前らも来て占ってもらえよ」
振り返る紅華さんの視線の先に、ボクたち三人がいた。
「ゲ、なんでオレさままで。悪い結果だったらイヤじゃねえか?」
「占いなど、ホ、本当に当たるのか?」
奈央のヤツも好きだったケド、やっぱ当たるからなのかな?
「でもよ。お前のトランプ、なんか多くないか?」
「ボクの占いは、少し特殊でね。大アルカナの他に小アルカナも使って占う、オリジナルなのさ」
紫芭さんは、右手に持った扇を裏返す。
そこには人やシンボルなど、様々な絵が描かれたカードがあった。
「ア、アレ。トランプじゃねえ!?」
「ウム、絵柄を見るに、タロットカードの様にも見えるが」
あ、ホントだ。
「トランプってのは、和製英語だぜ。クロ」
「え、そうなのか……って、人前で、犬みたいに呼ぶんじゃねえ!」
「英語では、カードってんだろ、紫芭?」
「中々に博識じゃないか、紅華さくん。トランプとは、英語で切り札って意味さ」
温和に話しながらも、火花を散らす二人。
「そしてタロットカードとは、日本では一般的に大アルカナ二十二枚を差す」
柴芭さんは、扇にしなかった残りのカードを裏返す。
「トランプと呼ばれているモノは、小アルカナと言って、本来は同じものだったのさ」
「ホントだ。なんかトランプっぽいカードだ」
「フム、だが少しばかり、絵柄が異なる気はするが」
「……それ以前に、大アルカナだけ抜き出されているコトに驚いてやれよ」
「うッ、言われてみれば!?」
「カードをシャッフルしながら、タロットカードの絵柄だけ抜き出したと言うのか?」
「アシストいただき、感謝すべきかな?」
「いや、コイツらがバカ過ぎなだけだ。気にすんな」
「な、なにおゥ!?」
ガルルと牙を剥く、黒浪さん。
「タロットで小アルカナと呼ばれているカードは、こん棒、金貨、剣、聖杯と絵柄こそ多少異なるが、トランプとほぼ同じものだよ」
確かにそれぞれに、1から10までを現す絵柄のカードと、キングやクイーンっぽい絵柄がある。
「だが、人物の絵柄のカードが四枚あるぞ」
「ナイト、クイーン、キングの他に、ペイジ(小姓)のカードが含まれているからさ。だからそれぞれが14枚、合計で56枚のカードで構成されている。
解説をしながら柴芭さんは、大アルカナと小アルカナのカードを混ぜ合わせ、シャッフルを始める。
「さあ、キミたち。まずは1枚、好きなカードを引いてくれたまえよ」
柴芭さんの両手に、二つの扇が完成した。
「フッ、スキル自慢なら、脚でやれってんだ」
その間も、リフティングを続けていた紅華さんは、カードを1枚引く。
「恋人(ラバーズ)。キミらしいカードだね。恋愛・ときめきと情熱などを示すカードだ」
「まったく、だから何だってんだ」
紅華さんが、引いたカードを裏返す。
「スゲー。裏返す前に当てやがった」
「だが逆位置だ」
「逆位置って、なんだ?」
「彼が持っているカードは、上下が逆さまだろう?」
「た、確かに」
「そうなると、カードの性質が暗転する」
「クッ……」
柴芭さんがそう言った瞬間、紅華さんがリフティングを失敗した。
「逆位置の『恋人』が暗示するのは、誘惑、不誠実な異性関係、失恋、破局などさ」
柴芭さんは、不敵にほほ笑んだ。
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