命の決断
『内部に侵入したウィッチレイダーたちの戦闘によって、敵艦に多大なダメージを与えられた模様です』
フォログラムのベルダンディが、ボクに報告した。
「ウィッチレイダー……『魔女の侵略者』とは、よく言ったモノだな」
その小さな魔女たちは、ボクの娘に他ならない。
「漆黒の闇の魔女のあちこちで、爆発が起こってやがるぜ」
「もう十分だ。娘たちを、脱出させよう」
ボクをパパと呼んだ娘たちの身が、やはり心配だ。
『行けません、艦長。敵艦の中心部付近で、強力な核融合反応が観測されました』
ベルダンディは至って冷静な顔だったが、言葉の内容は緊急を要している。
「そ、それって敵艦が、水爆みたいな核融合爆発を引き起こすってコトか!?」
「水爆って、何ですか、おじいちゃん?」
セノンが、あどけない顔で質問した。
「水爆……水素爆弾ってのは、二十世紀の科学が生んだ、核融合で生じる熱エネルギーをまき散らす悪魔の兵器だよ」
『核融合反応とは、物質が超高温・超高圧力下で別の物質に変わる現象を指し、本来は太陽などの巨大な恒星の中心部でしか起きません。超高温・超高圧力な環境を、原爆の核分裂反応によって無理やり生み出したのが水爆です』
べルの冷静な説明を聞きながら、かつて千年の昔、核融合について熱く語った少女のコトを思い出す。
彼女は、核融合を錬金術に例えたのだ。
「だから水爆は、別名『熱核』とも呼ばれている。恐らくあの艦の動力源が、核融合炉なのだろう?」
『はい、その認識で間違いないかと思われます』
「それで、核爆発の規模は?」
『重力バリアにより、我が艦への影響は微少で済みます。ですが、ウィッチレイダーたちの機体は、消滅は免れないかと』
「そ、そんな……何とか、ならないのか!?」
『本艦に張り付いている機体は、回収が間に合いそうです。ですが、敵艦の深くに進入した機体の一部は、残念ながら……』
「核融合炉の位置は!?」
『胴体部分とスカートの接続部辺りから、高エネルギー反応が起こっています』
「そこを破壊したら、爆発は止められないのか?」
『核融合炉の内部は、膨大な熱エネルギーで満たされております。残念ですが、破壊したところで、エネルギーの拡散予測が不安定になるだけでしょう』
「小娘なんざ、どうなったって構やしねえだろ。さっさと重力バリアを展開しやがれ」
「ふざけるな、人の命だぞ。ましてや、ボクの娘だ!」
ボクはプリズナーに、感情をぶつけていた。
「テメー、いきなり襲ってきたガキ共の言葉を、アホみてーに信じてんのか?」
プリズナーが言った通り、ウィッチレイダーたちは火星の衛星・フォボスで、ボクたちを襲撃しさらった張本人だ。
「アイツらは、ボクをパパって呼んだんだ。一緒に銭湯で風呂にも入った」
「だからって、あのガキ共がお前の本当の娘だなんて保証は、どこにも無いぜ」
「そんなコトは解かってる」
「だったら、さっさとバリアを……」
「だけど、ボクの娘じゃないって確証も、どこにも無いんだ!」
口には出さなかったが、もう一つだけ別の感情がある。
娘たちは、自分たちの母親は『時澤 黒乃』だと言ったのだ。
もし言葉が真実だとすれば、六十人の少女たちは、ボクと黒乃の娘になる。
「大事な娘たちを、核の炎で焼き殺されてたまるものか!」
「だが、どうすんだ。お前に何か、別の解決策があんのか?」
「そ、それは……」
「このままだと……」
「みんな死んじゃうよ!」
「どうする、艦長!?」
ボクを見つめる瞳は、プリズナーだけでは無かった。
冷静なヴァルナや、陽気なハウメア、男の子っぽい真央もいる。
「おじいちゃん……」
それに、フォボスで助けたクアトロ・テールの女の子もいた。
ボクは艦長として、命のかかった決断を迫られる。
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