娘たちの闘い
MVSクロノ・カイロスと同等サイズの、巨大な艦が変形した『漆黒の海の魔女』は、驚異的なスピードで突進してくる。
「わああ、パパ!」「おっきなのが追ってきたよォ!」
「あんなの反則じゃん!」「ど、どうしよう」
娘たちの不安な意識が次々と、ボクの脳に飛び込んできた。
機械の触手で形成された長いスカートと、アンバランスなくらい細い上半身。
それが間近に、驚異となって差し迫る。
「ソーアやラムカ、お前たちのライフルなら狙撃できないか」
「や、やれそうかな?」「う、うん。頑張れば」
「細い上半身を狙ってみてくれ!」
ボクの指示で、ソーダ色の髪の十二人の甘えん坊は、魔女を狙撃する。
「ビ、ビームが捻じ曲げられて行く!?」
娘たちの放った、ロングレンジ・フォトンライフルの閃光は、魔女に触れるコト無く深淵の暗闇へと消えて行った。
「ゴ、ゴメンなさ~い」「は、外れちゃったぁ!」
「じゅ、重力バリアか?」
『はい。この艦のモノよりも、強力なバリアが存在していると思われます』
「ククッ。どうやら同じ『時の魔女が創った艦』でも、向こうの方が高性能らしいな?」
「皮肉を言っている場合じゃないだろ、プリズナー」
「だったらどうする、艦長さんよォ?」
「ソーア、ラムカたち、もう一度だ」
「でもパパ」「また、重力バリアが」
「今度は、できるだけ魔女が接近してから撃ってくれ」
「そ、そっか」「わかった、パパァ」
可愛らしい十歳の娘たちは、素直な返事をしてくれた。
「サラアやクーア。全身に重火器を搭載したお前たちの機体も、中距離ならいけるだろう?」
「はい、パパ」
「中距離での集中砲火は、お任せください」
桜色のサブスタンサーに乗った、お淑やかな娘たちの礼儀正しい返事。
「ベル、この艦の後方の砲台も、娘たちの攻撃にタイミングを合わせてくれ」
『了解いたしました、艦長』
新米艦長の考えた稚拙な作戦は、実行されようとしていた。
「おじいちゃん、魔女がもう真上に来てますゥ!」
「うわあああッ。撃って来るぞ!」」
「で、でも……なにもしてこない」「な、何でェ?」
艦橋の真上を、魔女の巨大な巨体が横切る。
「どうやら上半身には、有効な武器が備わってないみてえだな。前に出ようとしているぜ」
プリズナーの指摘を逆に読めば、四本の巨大な触手と十六本の長い触手で構成された、下半身のスカートは武器の塊と言ってよかった。
「前に出させるワケには、行かない!」
ボクは立ち上がって、手を振り上げる。
「今だ、撃てェーーーーーッ!!」
ボクに指示された娘たちの機体と、MVSクロノ・カイロスの攻撃可能な砲門が、巨大な魔女へと向けられた。
「きゃあああっ!?」
目を開けていられないほど眩しい閃光が、艦橋を覆いつくす。
その後、巨大な爆発が魔女の、スカートと上半身の接続部辺りで巻き起こった。
「や、やったのか?」
『いいえ、まだ完全に沈黙しておりません』
敵魔女の状態は、中破と言ったところに見えた。
「重力バリアはどうなった?」
『今の攻撃で、バリアの一部が破壊されました』
「よし。オレアやレジアの近接攻撃用機体は、バリアの破損した部分から進入し、内部から敵に攻撃を加えるんだ」
「らじゃー!」「任せて任せて」
「チョコアやココアたちは、フォトン・ウィップとシールドで、攻撃と援護のバランスを取って行動してくれ」
「お任せあれェ」「適時対応だね」
「マテアやステアたちは、フォトンリングで二部隊の防御面のサポートを頼む」
「はいはーい」「世話が焼けるなあ」
敵の内部に突入する、娘たちの見ている映像が、ボクの脳裏に投影される。
「チョコカ、左後ろに敵がいるぞ!」
「うわあ、ホントだ」
「オレサ、後ろに退け!」
「あ、危なッ!?」
娘たちを一人も失わないように、脳に送られて来る映像に細心の注意を払う。
「六十人もの娘たちを戦場に出すとなると、こんなに大変な思いをするのか……」
ボクは始めて、『娘を持つ親の気分』を味わった。
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