ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第10話

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自殺

「ずいぶんと、古そうなアパートだな。ここがタリアの家らしいが……」

 細い通りから、更に奥まった場所にアパートはある。
街路灯は薄暗く、道には雑草が生え、アスファルトがひび割れていた。
「まるで、廃墟ね。コンクリートのブロック塀も、崩れ落ちそう」

「オイオイ、人の家をそんな風に言うもんじゃ……と言っても、これは流石に酷いか?」
 入口から階段のある横道に入ると、土がむき出しのままで、一昨日の雨でぬかるんでいる。

「彼女の部屋は、二階の三号室だったな」
「ええ。でもこの階段、大丈夫かしら?」
 ユミアが不安がるのも仕方が無いくらいに、階段も赤錆で変色し朽ちかけていた。

「まずは、呼び鈴を……ってアレ、壊れてる」
「予想の範疇ね」
 仕方ないので、昔ながらの方法で呼び出すことにする。

「ごめん下さ~い。美乃栖 多梨愛さん、いらっしゃいますか?」
 返事はない。
しばらく待って、もう一度呼びかけてみるも、結果は同じだった。

「タリア……いないみたいね」
 五時に天空教室での授業が終わって、一時間が過ぎている。
一つだけある階段付近の蛍光灯が、パカパカと点滅していた。

「今日はもう遅い。タリアも明日は、普通に出てくるかもしれない」
「でも、今日は出てこなかったわ」
「そうだな……彼女が帰るのは、キミの……」

 そう言いかけたとき、急にタリアの部屋のドアがガチャリと開く。
「ああン。お前さんたち……誰だ?」

 顔を出したのは、中年の男性だった。
シワの寄った顔には不精髭が生え、目はトロンと垂れ下がっている。
辺りにほのかな、アルコールの匂いが漂った。

「タリアさんの、お父さんでしょうか?」
 ボクが問いかけると、男はさらに表情を歪める。

「ボクは、タリアさんの担任教師をして……」
「ああ、ユークリッドの犬か?」
 機先を制して投げかけられた、男の言葉は辛らつに続く。

「え……?」
 小声でビクっと驚く、ユミア。

「オレにとっちゃ、どうだっていいコトだがよォ」
「あの……タリアさんは、ご在宅でしょうか」
「ご在宅なワケ、あるかい。アンタらが、連れていっちまったんだろうが?」

「それじゃあ娘さんは、こちらには……」
「勘違いしなさんな、若いアンちゃんよォ。オレは、タリアの父親じゃねえ」

「で、でもタミアの家は、ここだって?」
「アイツは、兄キの娘さ。嬢ちゃん」
 男は、甘い臭気を吐き出しながら言った。

「失礼ですが、お兄さん……タリアさんのお父さんは今、どちらに?」
「死んじまったよ……自殺さ」

「ど、どうしてッ!!?」
 目を見開き、声を荒げるユミア。

「そうさな、人生に絶望でもしたんだろ」
 そう言うと男は、懐から煙草を取り出しライターで火を付ける。

「兄キは、出来の悪いオレなんかと違って、ガキの頃から優秀で、大人になってからは高校の体育教師をしていた。ウチは貧しかったんで、ボクシングの特待で大学に入ったんだが、そっちの腕も大したモンでよォ。国体の個人で準優勝だ。それが……」

 理由を聞くほど、ボクもユミアも愚かでは無かった。

「アンタらも知ってんだろ。教民法の施行と、ユークリッドの誕生で、何もかもが変わっちまったのさ」
 男はそれだけ告げると、紫色の煙と共に部屋のドアを締め消えた。

 ボクとユミアは、無言のままアパートを後にする。
隣を歩く、さっきまで元気だった女子高生の落ち込みようが酷い。

「伯父さんの口ぶりからすると、タリアは恐らくアパートには殆ど帰ってないな」
 あえてユミアを慰めようとはせず、違う話題から入ったが返事は無かった。

 すっかり暗くなった道の先に、真っ赤な警報機がチカチカと左右に光り出す。
「お、電車の駅が近いんだな。帰りは、電車で帰るか?」

 やはり返事は無かったが、前方の高架下から声が聞こえた。

「だ、誰かがケンカしてるぞ?」
「タ……タミア!?」
 赤い光を浴びるその顔は、見覚えのある顔だった。

 

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