漆黒の海の魔女
深淵の宇宙で繰り広げられる、SFロボットアニメの如き空間戦闘。
「次は、わたしたちの番だぁ」「実力、見せちゃうよォ!」
「あんなヤツら、やっつけちゃお」
「マテアやマテカ、ステアたち、マスカット色のポニーテールの十二人だな?」
『彼女たちの機体は、フォトン・リングと呼ばれる兵器を駆使して、戦闘を行います。局面に応じて味方機の援護をしたり、電子戦を行ったりします』
「アレが、フォトンリングか。新体操のフープみたいに見えるな」
マスカット色の機体は、それぞれが十個前後のリングを操り、それが味方機への被弾を防ぐシールドになったり、敵戦闘機に張り付いて機能を停止させたりしていた。
「それじゃ、残った水色の機体がソーアやソーカ、ラムアたちソーダ色の三つ編みのコたちか」
娘たちの乗った、六十もの機体の雄姿を見ながら考える。
アイツらはボクを父親と呼び、時澤 黒乃を母親と呼んだ。
当然ながらボクには、時澤 黒乃とそんな関係になった記憶はないし、彼女が六十人もの娘を一度に産んだとも、考えづらい。
けれどもそれは、二十一世紀の常識でしかなかった。
人工子宮によって人間が量産され、コミュニケーションリングとやらで、脳の記憶が簡単に書き換えられてしまうこの時代に、あのコたち六十人がボクの実の娘でないと、どうして言いきれようか?
『彼女たちの機体は、遠距離狙撃型です。ロングレンジ・フォトンライフルにより、超・長距離の精密射撃が可能となっております。艦長……?』
「あ、ああ。すまない」
少し上の空になっていたボクが見上げると、巨大な水色の機体がMVSクロノ・カイロスに自身を固定させ、遠距離狙撃をおこなっていた。
フォトンライフルの狙撃は、銃口と狙撃対象を一瞬だけ光の糸で結ぶ。
糸はクネクネと宇宙空間を、絡んだ毛糸のように自在に走った。
「光ってのは、直進するモノじゃないのか?」
『光とは、電波と磁波の波です、艦長』
「なる程。磁波の性質を使って、無理やり捻じ曲げているのか」
娘たちの乗るグレンデル・サブスタンサーは、一機も失われるコト無く、次々に敵の戦闘機を壊滅させていった。
「西暦で言えば三十一世紀のこの時代に、まさか宇宙空母やロボットでの戦闘が行われるなんて……望んではいたが、予想はしていなかったな」
『それホド、おかしなコトでしょうか?』
「ボクの時代じゃ戦闘機は、ミサイル性能が上がり過ぎて、ミサイルキャリアーと化していたんだ」
二十一世紀生まれのボクは、ゲームやアニメの影響からそれなりに軍事関連の情報も得ていた。
「戦闘機同志の空中戦(ドッグファイト)なんて、過去の遺物と化そうとしていた……って、千年前に生まれた過去の遺物である、ボクが言うのもおかしな話か?」
「そんなコトより、艦長さんよォ。アレを見ろ!」
ボクは、プリズナーに言われた方向を見る。
「おじいちゃん、敵のおっきな舟が……」
「人型に変形してるぞ!?」
後部カメラに切り替わっていたスクリーンは、引きはがした敵艦の様子を捉える。
艦は、前方部分の巨大な四本のアームの間に、後方の長い触手のようなアームを移動させ、スカートみたいになっていた。
後方の触手があった部分からは、『女性を連想させる上半身』が姿を見せる。
「こりゃあ……宇宙の大海原に現れた、『漆黒の海の魔女』ってところか?」
「上手いコト言ってる場合じゃないぞ、プリズナー!」
ロマンに溢れた変形ではあるが、そればかりでは無さそうだ。
「バーニアやスラスターを後方に集中させたコトで、とんでもないスピードで追って来てる」
「このままだと、直ぐにまた補まっちゃうよォ!」
ヴァルナとハウメアも、慌てふためいている。
「せっかく振り切れたのに、ですゥ!?」
「娘たちのグレンデル・サブスタンサーで、対処は可能か?」
『敵は1000メートルを超える、ヘカトンケィル・サブスタンサーです。厳しいと思われます』
ベルダンディは、冷静に絶望的なコトを言った。
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