グレンデル・サブスタンサー
「アレは、コンバット・バトルテクター?」
「この時代じゃアーキテクターってのは、自立型のAIを搭載した自己完結型の人型機体を指すぜ。アーキテクターの軍用が、コンバット・バトルテクターなワケだが……」
『人間自身が乗り込む、あのような10メートル前後のタイプは、『グレンデル・サブスタンサー』と呼ばれております』
「つまりアレには、ウチの六十人もの娘たちが、直接乗り込んでいるっていうのか?」
『はい』ベルは短く答える。
「普通なら、この『コミュニケーションリング』で操縦するんだがよォ。ヤツらの首に、そんなモン無かったぜ?」
プリズナーは、首のリングを指しながら言った。
『コミュニケーションリングを介さずとも、脳波によってコントロールされているのです。普通であれば、戦闘はAIに任せた方が高性能なのですが、あのコたちは特別ですから』
「特別……ウチの娘たちは、一体何者なんだ……」
艦橋から、巨大なグレンデル・サブスタンサーの雄姿を見上げる。
「天使と妖精を混ぜたような、デザインだな?」
機体の背中には天使の小さな翼があり、そこから羽虫の翅が伸びていた。
「色も可愛らしいのです」
「白がベースで、それぞれの髪の色が差し色になってるのか」
娘たちの髪の色と同じく機体は5種類あり、それぞれが12機ずつ存在した。
『宇宙斗艦長。艦長の椅子におかけ下さい。あのコたちと、コンタクトが可能です』
「ああ……」ボクは、会話ができるくらいだろうと思い、椅子に座る。
「うわッ! これって……」
目の前に突然、宇宙空間が広がった。
視界だけがとてつもないスピードで、宇宙を飛び回っている。
『はい。あのコたちが見ている、映像(ビジョン)です』
「脳が認識している、視覚情報を送ってきているのか!?」
『意識をすれば、見たいと思う機体に切り替えられます』
「そんじゃパパ、まずはアタシたちから見てて!』
無邪気な声が、耳に届く。
「オレアやオレカ、レジアたちか?」
「そだよー」「カッコイイとこ、見せちゃうからね」
オレンジ色のボブヘアの少女たちの、返事が聞こえた。
『人間の脳は、二つの目で見た視覚情報を、角度差から立体的な一つの映像情報として処理します』
「その処理された情報を、ボクは見ているのか?」
オレンジ色のボブヘアの娘たちの、二十四の瞳が見た十二の映像情報を、ボクの脳は同時に見ていた。
「そ、それにしても、こんな感覚は初めてだ」
飛び交う敵の戦闘機は、小さいタコとかイカみたいな形をしている。
娘たちの視覚は、戦闘機を次々に破壊して行った。
『オレアたちの、グレンデル・サブスタンサーは近接戦闘型です。攻撃は、ランスも兼ねたフォトンレーザー・ライフルで行い、左腕にはラウンドシールドが装備されております。敵の懐に飛び込んでの戦闘スタイルのため、防御性能も高くなってますね』
「こんどはわたしたちを、見て下さい」
「ん、その声は、サラアやサラカ、クーアたちだな」
「正解です」「覚えててくれたんですね」
『彼女たちの機体は、中距離攻撃機です。フォトンレーザー・ライフルに、全身に配されたフォトン・ブラスター砲やフォトン・レーザー砲で、敵と一定の距離を取って戦闘を行ないます』
「なるホドな。確かに敵を撃破した時の爆発が、さっきより遠くで起こってる」
「キャハハ」「こんどはこっちこっちィ」
「この小悪魔的な声は、チャコアやチャコカ、ココアたちだな」
「アタシたちの戦いは、ハデだよ!」
「スゴイな。敵がどんどん、切り刻まれていく」
宣言する娘たちの言葉通り、敵機体が無残に切断される。
『彼女たちの機体は、両腕の大型ラウンドシールドにそれぞれ、フォトンウィップと呼ばれる5本の鞭が仕込んであります。射程もある程度あり、敵を切り裂くコトが可能となっております』
「見た目は十歳の女の子なのに、ウチの娘たちは……」
ボクは親として、娘たちの身を案じていた。
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