スーパースター
スゴイ……ホントにスゴイや、倉崎さん。
『お聞き下さい。ホームである名古屋のサポーターからは、割れんばかりの大歓声ですよ!』
テレビに映された新人選手が、片手を挙げて声援に応えている。
『ロベルト選手のクロスは、決して簡単なボールではありませんでした。それをボレーで合わせて決めてしまうとは、とんでもない高校生が現れたモノです』
「ねえ。この倉崎って人、土手で一馬の脚を見てたヘンな人だよね?」
奈央が、顔にかかったオレンジジュースを拭きながら言った。
だけどボクは、興奮してテレビから目が離せない。
『ゴォォォーーーール! 今度は倉崎のスルーパスを、ロベルトが決めたァ!』
『いやぁ、ロベルトにしてみれば、流し込むだけのイージーゴール。見事なスルーパスでしたね』
試合は、倉崎さんが完全にコントロールしていた。
『ディフェンスラインからフォワードの位置までを、激しく動き回る倉崎に、東京ギガンテスの守備陣が混乱させられていますね』
『本来であれば、FWの選手が低いラインまで降りていくのは、わたしはあまりお勧めしないんですがね。彼の場合はワンステップで、ロングボールを展開できてしまう』
「倉崎さんが持った! 今度はなにを……?」
『おおっと、倉崎。センターサークル付近から、狙ってきたァ!』
ロ、ロングシュートだ!!?
メオンが必死に飛び込むものの、ボールは彼のキーパーグローブの先を通過する。
『ゴオオオオォォーーーーー!!?』
割れんばかりの声援が、名古屋のサポーーから湧き上がる。
『なんと今度は、40メートルはあろうかという距離を決めてしまったァ!』
『倉崎が左のロベルトを見たんで、一瞬だけメオンの重心が右に寄ったんですね。そこを見逃しませんでした』
「うわあ。この人、また決めちゃったよ!」
サッカーにあまり興味を示さない奈央でも、驚く凄さだった。
「ボクは……こんなスゴイ人が作ろうとしている、チームに?」
鳥肌が立った!
背筋が続々する!
名古屋リヴァイアサンズの本拠地は、自宅からそこまで離れていない。
身近で巻き起こる奇跡に、ボクは自分の魂が熱く揺さぶられるのを感じた。
『ゴオオオオォォーーーーーールッ!!』
実況アナウンサーが今日、何度目かの同じフレーズを繰り返す。
『なんと倉崎、前半だけでハットトリック達成!!』
『いやぁ、落ち着いてますねェ。キーパーが飛び出したところを、あざ笑うかのようなループシュートで、決めてしまいましたよ』
『ガックリと肩を落とすメオン』
『ベテランでリーグ屈指のキーパーであるメオンにとって、これホド悔しいことは無いでしょう。なんと言っても倉崎はまだ、高校生なのですから』
試合は、完全に名古屋のペースとなった。
後半に入ると東京ギガンテスは、倉崎さんだけをマークするディフェンダーを付けてきたが、これが仇となる。
倉崎さんはアシスト役に徹し、自分が何人ものマークを引きつけた。
倉崎が開けたスペースに、ゲームメーカーの永倉と神澤がパスを出し、そこに走り込んだ両サイドのロベルトとカイザーが、次々にゴールを量産する。
『8対0……終ってみれば、名古屋の圧勝です。その勝利の立役者はなんと言ってもこの人、倉崎 世叛に他なりません!』
『いやー。見事と言うほかありませんな。ここまで新人がゲームを支配したのは、埼玉ブルークリスタルズの王野くらい……いや、彼でもデビューは、高校を卒業した後でしたからねえ』
「すごい……すごい、すごい、すごい、すごいよ、奈央!!」
「ちょ、ちょっと一馬ァ。わかった、わかったから!?」
ボクはナゼか顔の赤い奈央に、倉崎さんの凄さを語り尽くした。
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