新たな英雄
「だからさぁ、カーデリア。ほんの悪戯心じゃねえか?」
「アンタって奴は……ホントにもう、飽きれてモノが言えないわよッ!」
ニャ・ヤーゴの城の会議室で、パッションピンクのクルクル髪の少女が、小柄な赤毛の少女に向って怒りを撒き散らしていた。
「あたし達だけならまだしも、アンタはプリムラーナさまや、レーマリアの裸まで覗いたんだからね!」
凄い剣幕のカーデリアの隣で、女将軍や皇女殿下は顔を赤らめている。
「別にいいじゃね~かよ。今のオレは、『女』なんだしィ~!」
「開き直るんじゃな~い!」
カーデリアは、赤毛の少女の首にヘッドロックを掛け締め上げた。
「いくら先導されたからって、舞人も舞人よ。今回は奇跡的に多目に見てもらえたけど、今度こんなコトしたら、タダじゃ済まないんだからね!」
「……ア、アイ……」
顔中たんコブだれけの少年が、栗色の髪の少女の前にひれ伏す。
「『英雄、色を好む』か……ヤレヤレじゃのォ」
漆黒の髪の少女は、紅茶を口に運びながら深いため息を付いた。
「しっかしよォ、シャロ。随分と可愛らしい姿になっちまったな~オイ!」
「うっせえよ、クーレマンス。まあ意外と、気に入って無くもないんだケドよ」
「でもよォ。今のお前を見たら、雪影の奴なら気絶しそうだぜ。オレも三時間くらい、腹ぁ抱えて笑い転げてたしな……ぎゃはは!!」
「笑うんじゃねえ!!」
赤毛の少女は筋肉男のアゴを、おもいきり蹴飛ばした。
「確かに、笑い事では済まされない深刻な問題だな……」
オフェーリア王国が誇る、人工オリファルコンのオレンジ色の鎧をまとった戦術家、『グラーフ・ユハネスバーグ』が指摘する。
「『サタナトス』と云う未知の脅威が現れた今、救国の英雄たるシャロリュークが力を失ったと知れ渡れば、世の動揺も隠せまい」
美しい裸体を晒してしまったプリムナーラ女将軍も、目を伏せ紅茶を飲みながら同意する。
「まあ、それなら問題ね~んじゃねえか。舞人がオレの代わりをすれば済む話だぜ?」
「簡単には行かね~だろ、お前はよ。自分の影響力をまるっきり解っちゃいねえなァ」
「確かに、このコがシャロの代わりを務めるなんて……チョット無理があるわね~」
クーレマンスの意見に賛同したカーデリアが、値踏みするように舞人を見た。
「あ、あの、舞人はぜんぜん頼りないヤツですけど、これでも最近は変わって来たんです。少しは成長したと言うか……その……」
「パレアナ、ゴメンね。言い方が悪かったわ。でもね。こんなアホでも、仮にもコイツは『救国の英雄』なのよ。舞人くんが……とかじゃなくて、わたし達も含めて代わりは誰にも出来ないわ」
「そ、そうですよね……確かに……すみませんでしたァ!」
パレアナは出しゃばって熱くなった自分が、急に恥ずかしくなる。
「ですが、カーデリア」
カーデリアに対し、意外な人物が口を挟んだ。
「因幡 舞人。報告によると彼はもう、二度も我が国の危機を救っているのですよ」
レーマリア皇女は、ルーシェリアや部下からの報告を受け、舞人の功績を高く評価していた。
「え? ボ、ボクが?」
だが言われた当の本人は、国を救った記憶などどこにもない。
「ヤレヤレじゃのォ。妾が魔王城にて、こんな姿に変えられてしまった時と……」
「オレが魔王にされちまって、ニャ・ヤーゴの街を吹っ飛ばそうとした時だな?」
「わたし達の時も含めると、三度です」
「救国……とまでは行きませんが、わたしは命を救われました」
双子姉妹も、新たな舞人の功績を付け加えた。
「『赤毛の英雄・シャロリューク・シュタインベルグ』が、少女となってしまった今、世界には『新たなる英雄』が必要なのかも知れぬな……」
プリムラーナの意見に、アーメリアとジャーンティが補足情報を出す。
「ニャ・ヤーゴの街では、赤毛の英雄が死んだとか、失われたなど、様々な噂が飛び交ってます」
「ヤホーネス王都にまで噂が広がるのも、時間の問題かと」
「なんだよ、みんなして。オレは生きてるっつーの!」
赤毛の少女は一人、機嫌を損ねている。
「人の裸を覗いたりするから……」
「そんな目に遭うんだよ~だ!」
アーメリアとジャーンティは、まだ浴場の件を根に持っている様だった。
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