英雄たちの末路
ニャ・ヤーゴのそこそこ豪奢な浴場で開かれた、女だけのハズの会議。
次第に互いの緊張を緩めながら、進んでいった。
「そう言えばシャロリュークさん、まだ見つかってないんですよねえ?」
「アイツのことだから、今頃どこかでロクでも無い悪戯でも考えてる頃よ!」
リーフレアの質問に、カーデリアが『赤毛の少女』を膝に乗せながら答えた。
(くうッ! 鋭いな、お前。しかし、胸の方は大して成長しとらんぞ)
強がりを言いつつもカーデリアは、赤毛の少女の髪を懐かしそうに撫でる。
「ねえカーデリア。そのコの髪、なんだかシャロ様に似てませんか?」
レーマリア皇女殿下が、カーデリアの横から『赤毛の少女』を奪い取って自らの膝に乗せた。
(ヌオオッ、レーマリア……お前、ホントに十五歳かよ。カーデリア……お前、完全に負けてるぞ!)
シャロリューク・シュタインベルグは、背中に感じる『肉と脂肪の塊のボリューム』が、先ほどまでとは完全に別次元であるコトに驚嘆する。
「確かに、このボサボサでツンツンの赤毛なんて、シャロにそっくりなのよね~?」
観察を始める皇女殿下と幼馴染みに、赤毛の少女は脂汗を流した。
「ところでルーシェリア殿。貴殿は城の近隣で、サタナトスなる少年と刃を交えたと聞いたが……一体何者なのだ。感想をお聞かせ願えぬか?」
一同が和んだところで、プリムラーナは本題の核心に迫る質問をする。
「そうじゃのォ。まず我ら魔族は、本来ならば『忠誠心』などというモノは持ち合わせてもおらぬし、利害関係以外の関係は持たないのじゃ……」
ルーシェリアは、浴室の洗い場で些細なことで喧嘩を始めている、ネリーニャたち双子とアイーンやマイーンたち八つ子を見ながら言った。
「……つまり?」
女将軍は、言葉の続きを促す。
「お互い興味も無ければ、どうとも思ってはおらん。関係性も希薄でのォ。つまり魔族は他の魔族のコトなど、殆ど知らんと言うことじゃ」
「その『サタナトス』なる少年について、何も知らない……と言われるのですか?」
レーマリア皇女が、ルーシェリアに真意を問うた。
「奴自身が認めたコト意外はのォ? 奴は、『人間』と『魔族』のハーフじゃ」
「では、シャロリューク様に怪我を負わせ、付近の河の水を蒸発させる魔力を持った者が、人間の血も引いている……と?」
プリムラーナを始め、湯船に居合わせた一同は驚愕し顔を見合わせた。
「そうじゃ……ちなみに今回の大破壊は、その少年によって『魔王』へと姿を変えられた『シャロリューク・シュタインベルグ』自身が巻き起こしたモノじゃからのォ」
「ええーーッ!? シャロが、『魔王』にされたぁぁーーーッ!?」
カーデリアは驚きのあまり、絶叫して立ち上がった。
「あの爆発は、赤毛の英雄が引き起こしたと言われるのですか!?」
「正確には、赤毛の魔王・シャロリュークじゃよ。プリムラーナ」
「確かに、舞人くんの『ジュネティキャリパー』は、『魔王を人間の女の子』に変えちゃうワケだから……その逆も?」
「つまり『人間を魔王に変える能力』があっても、おかしくは無いということでしょうか?」
双子の司祭は急に不安になって、お互いに抱き合った。
「しかし、ルーシェリア殿。それではシャロリューク殿はどうなされたのです?」
「そうよ、シャロはどうなっちゃったの。無事なの!?」
「ヤレヤレじゃのォ~。無論、『赤毛の魔王がご主人さまに倒された』から皆、無事なのじゃ。そうでなかったら、この街ごと消し飛んでおったわ」
プリムラーナとカーデリアの質問責めに、ルーシェリアは肩を竦め首を振りながら答えた。
「そんな……それじゃシャロが……シャロが死んじゃった……?」
「嘘……です。そんなの、信じられません!?」
カーデリアとレーマリアは、『幼き赤毛の少女』にすがって泣き崩れる。
「コレ、慌てるで無いわ。ご主人サマの『剣の能力』を忘れたのかえ?」
「そ……それじゃあシャロは、生きてるん……だよね?」
恐る恐る質問するカーデリア。
「シャロリューク様は、ご無事なのですね!」
希望を見出す皇女。
目を赤く腫らしたカーデリアとレーマリアは、赤毛の少女を『貧相な胸』と『豊満な胸』でサンドイッチするかたちで抱き合った。
「ああ……生きておるとも。ただし……」
ルーシェリアは冷たい視線を、二つの胸に挟まれた少女に送る。
「どこぞの風呂場で、『赤毛の少女』の姿に成り果ててのォ~」
「へッ?」
「え?」
幼馴染みと皇女殿下は、顔を見合わせる。
「……あはは。よ、よおォ?」
二つの胸の谷間で、少女は引きつった笑顔を覗かせた。
「ギャアアァァァァぁーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
「きゃああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
幼馴染みと、皇女殿下の悲鳴がこだまする。
すると十分を遥かに経過し、茹でダコのようにのぼせ上った蒼髪の少年が、パレアナの目の前に浮上する。
「いやあああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
シスター見習いの少女の悲鳴も、浴場に響き渡った。
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