二人の少女騎士
シャロリューク・シュタインベルグは、可憐なる女将軍・プリムラーナ・シャトレーゼによって遣わされた二人の少女騎士と共に、王都に向け馬を走らせる。
「シャロリューク様……カーデリア様を置いて来てしまって、よろしかったのでしょうか?」
少女騎士の一人が言った。
小柄だが、真っ白な肌にインディゴブルーの短い髪、切れ長の目にラベンダー色の瞳を湛えた少女だ。
「アイツがいると、ガミガミうるさくてな。気ままに旅も……と、思ったんだが」
赤毛の英雄は乾いた空を見上げ、ため息を付いた。
「……まさか、王都への使者が『二人とも女』だったとはな。こんなのがカーデリアにバレたら、血の雨が降るぞ……」
「恐れながら、我らが女であるコトなど、気にする必要はございません」
インディゴブルーの髪の、少女騎士が言った。
「わたしは、プリムラーナ様にお遣えする『アーメリア・ジーレティス』……ただ、それだけです」
「オレは気にしなくても、気にする奴がいんだよ!」
「……はあ、そうなのですか?」「ヤレヤレ……」
アーメリアの生真面目さに呆れる、赤毛の英雄。
一行は王都までの旅の行程で、最大の難所とされる『イティ・ゴーダ砂漠』に差し掛かった。
「こっから先は、今までみてーに街もねえからな。でっかいサソリやら、ワームやらがウジャウジャ生息する死の砂漠だ。覚悟は良いかい? 引き返すなら、今のうちだぜ?」
「問題ありません、シャロリューク様。我らに気遣い無く、お進み下さい!」
気丈に言い放つ、アーメリア・ジーレティス
「そうは言ってもなあ……ン!?」
シャロリュークが懸念する間もなく、熱砂の砂漠を住処とする巨大なサソリが、群れを成して襲いかかって来た。
「ヤレヤレ、言わんこっちゃねえ……」
英雄は、背中の大剣に手をかける。
すると、もう一人の少女騎士が、ワームの群れの前に立ちはだかった。
「ボクは、『ジャーンティ・ナーラシャ』だよ! まずはボクが戦るから見てて!」
同じく小柄だが、褐色の肌にアッシュピンクの短い髪、モスグリーンの瞳の少女が、巨大サソリの大群に向って突進して行った。
無防備に迫る少女に向って、巨大サソリの毒針が次々に突き刺さる。
「おわッ!? いきなりマズくねえか?」
「心配には及びません、シャロリューク様。ジャーンティの剣は、彼女の体に毒耐性を与えております」
アーメリアは、もう一人の少女騎士のピンチにも、動じなかった。
「残念だケド、ボクに毒は利かないよ。今度はボクのターンだ。『アマゾ・ゼッツァ』!!」
褐色の肌の少女は野生的に飛び回りながら、ドリル状の剣を次々にサソリへと突き刺す。
「決めるね!!」
ジャーンティの掛け声と同時に、魔物は内部から煮えたぎった臓物を撒き散らしながら破裂する。
「……こりゃまた、凄まじい戦い方をするねえ。いとも簡単にサソリの装甲を貫いたかと思えば、内部に膨大な熱を送り込んで崩壊させちまうたぁな」
シャロリュークは肩を竦め、苦笑いを浮かべた。
すると今度は、ジャイアント・サンドワームが群れを成して現れ、流砂を起こして一行を自分たちの『巣』へと押し流しにかかる。
「次は、わたしが出ましょう」
アーメリアが、腰に刺した剣に手をかけながら言った。
「お前も、アイツくらいには強いのか?」
「見ていれば、すぐに解ります!」
砂丘を滑り降りながら、アーメリアは呪文の詠唱を開始する。
「芳醇なるワインの如く赤き剣……『アムリ・ソーマ』よ! 汝が敵を滅せよ!」
アーメリアの持つ『赤き細身の剣身の刀』の周囲に、無数の『赤い光球』が出現し、彼女が剣を振ると敵に向って放たれた。
「溶け落ちよ!!!」
アーメリアが叫ぶと、赤い光球がワームに命中する。
光球が炸裂し赤い液体がまき散らされると、巨大ミミズは次々に溶解した。
「やるなあ? 強烈な酸によってあれだけのワームを、溶かし尽くすとはね」
シャロリュークは、感心する。
「これで我らの実力が、お解かりいただけましたか?」
「ボクたちに、気遣いなど不要だってコトがね!」
銀色の鎧に蒼いマントを翻した二人の少女は、赤毛の英雄をその実力で納得させる。
「お前たちが強いのはわかったよ。んじゃま、改めて王都までヨロシクな。『アーメリア・ジーレティス』に『ジャーンティ・ナーラシャ』!」
「あうっ!」「うぐう!」
二人は、一度名乗っただけのフルネームで呼ばれ、顔を赤らめる。
「ヤレヤレ、どーなんだ?」
シャロリュークは、再び肩を竦めた。
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