潜航する舞人
「アレ? もう誰か入ってる」
「ホントだ。紅い髪の女の子がいますね。どこの子でしょうか?」
リーセシルとリーフレアの双子姉妹は、互いに顔を見合わせる。
「もしかしてプリムラーナさまの、ブルー・ジュエルズ(蒼き宝石たち)のメンバーとか?」
カーデリアは、湯船に立つ幼い少女を観察しながら、麗しき女将軍に問うた。
「いや、さすがにここまで幼いメンバーは、我が姉妹の中にもおらんな」
プリムラーナ・シャトレーゼは、女神のように完全なる裸体に熱いお湯を流しかけながら答える。
「あっ。ルーシェリアちゃんが、教会に連れて来た女の子だ!」
後から浴場に足を踏み入れた、栗毛の少女が言った。
「なんだ、そうだったの。でも、元魔王に人間の少女の知り合いがいたなんてね」
「もしかしてルーシェリアちゃんの、知り合いのコ?」
パレアナは質問したが、ルーシェリアは何故か質問をはぐらかす。
「さ、さあのォ~? どこの子じゃろうな~。アハハ……」
そう言いながら、冷たい視線を赤毛の少女に向けた。
(ヤッベ! オレの正体を知ってる、コイツも呼ばれてたんだった)
少女は慌てて、湯船から逃亡を企てる。
「まあ、幼き少女が一人増えたところで、会議に問題はなかろう?」
「うむ。ルーシェリアの言う通りだな。少女よ、遠慮せず浸かっていくと良いぞ」
プリムラーナは、優美な腕で少女を後ろから抱きかかえると、再び湯船に沈めた。
(うわ! 胸デ……デケエ! そして形も柔らかさも、美しさも完璧だぁ~♪)
「それではプリムラーナさま」「早速ですが、会議を始めますか?」
最後に入って来た、アーメリアとジャーンティが、プリムラーナにお伺いを立てる。
(しまったぁ! 胸に気を取られて、つい湯船に戻っちまった。あのルーシェリアって娘は、完全にオレの正体を知ってやがるし、早く何とかしね~と!)
「そうだな。のぼせる前に、さっさと始めてしまおう」
可憐でグラマラスな主催者は、うなずくと話を進めた。
「我ら『ブルー・ジュエルズ』が、本国・フラーニアの『フォンテーヌ・デ・ラ・デエス(女神たちの泉)』にて、日頃から開催している『浴場会議』を催してみた」
プリムラーナが、湯舟の中央にまで進み出て、一同に挨拶をする。
「会議と銘打ってはいるが、ようは女同士の井戸端会議だ。女同士、腹を割って話そう。無論、男どもの悪口など大歓迎だ!」
そこは丁度、因幡 舞人が身を潜め沈んでいる辺りだった。
(ウウッ……大人の女の人のお尻がぁ!? でも、なんか柔らかそうで、良い感じだ~♪)
女将軍の直ぐソバで、水中呼吸と透明化のポーションを呑んだ舞人が潜っている。
(イカンイカン……逃げないと気付かれる! あっちの柱の向こう側なら、……)
青い髪の少年は、逃亡ルートを切り開こうと必死だ。
「あの……今回は、重要な会議ってお話でしたケド?」
緊張しているパレアナに対して、プリムラーナは優美な笑顔を向ける。
「まずは、お互い打ち解けようでは無いか? パレアナは、好いた男でもおらぬのか?」
「エッ!? わ、わたしは……べ、別に!?」
栗毛の少女は、耳たぶまで真っ赤になりながら否定する。
「パレアナってば素直だねえ? ……可愛い!」
「パレアナは、舞人さん一筋ですもんね~!」
「も、もう。リーセシルさんもリーフレアさんも酷いです! 舞人は、ただの幼馴染み……って言うか」
その噂の張本人は、幼馴染みと、薄いピンク色の髪の双子姉妹との間を移動していた。
(ムオオォ!? パレアナのヤツ知らない間に、随分と女っぽい体つきになってるよ。リーセシルさんも、リーフレアさんも、人形みたいに白くて細くてキレイだな~)
蒼髪の少年は、ポーションやエンチャントの効力が、十分しか持たないことを完全に忘れていた。
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