ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第05話

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四十代リストラ

 牛丼チェーン店のカウンターではない席に、七人の少女たちと座るボク。
 男性客の割合が圧倒的に多い牛丼屋では、まず見かけない光景では無かろうか?

「キアの家って、経済的に大変なのか?」
「せやな。正直、大変や。オトンが仕事クビになってもうたさかいな」

「それってユークリッドや、教育民営化法案の影響だったりするのか?」
 教育民営化法案が施行され、学校教育が民間へと移行されて十年。
公務員でなくなったコトで失職した教職員は、山のように存在した。

「ウチのオトンは、美容師の専門学校の教師やったんや。普通の学校の先生と違って、動画さえ見ておけば解かるっちゅうモンでもないんで、ちっとは安心しとったんやが……」

「あ、前にお昼の情報番組でやってました。失職した教職員が、美容師の学校や、美術やデザイン、コンピューター関連の専門学校に殺到してるって」
 卯月さんが指摘する。

「確かに教員免許を持ってれば、選択肢には挙がってくるか。若い世代なら、それぞれの分野に興味があるなら、やっていけそうだし」

「それなんや……」可児津 姫杏は、力なく言った。
 ステージでは、真っ赤に染まって暴れまくっていたツインテールも、今は焦げ茶色になって力なくうなだれている。

「専門学校も経営が厳しゅうて、できる限り若くて安上がりな人材を雇いたいみたいなんや」
「まあ専門学校も、営利企業だからな。とは言え、キアのお父さんは何歳?」

「た、たしか四十……四十一やったかな?」
「四十二です、姉さん」「せ、せやせや!」
 しっかり者の妹に指摘される、ツインテール少女。

「確かに商売人やさかい、しゃーない部分もあるで。せやけど、四十になった途端クビにされる世の中で、どないして子供育てるっちゅうねん!!」

 キアが発した台詞は、『彼女の父親が発したモノ』そのままだろうと、ボクは思った。
「四人も娘がいて、高校受験やら大学受験やらで、以前なら大変だったんだろう」

「学校自体が、無くなってしもうたんや。学力テストは盛んになったケド、高校や大学に行く必要ものォなったさかい、その辺は金がかからんで有り難いわ」

「でもユミアの開いた、ボクの教室には参加するんだろ?」
「あれは、金が出る方やさかいな。流石は天下のユークリッドや。気前ええわ」
 ボクはその事実を、初めて知った。

「ウチはこのあと先生の授業やさかい、シア……ミアとリアを頼んだで」
「このコたちより、うちにいるもっと厄介なのの方が問題だケドね」
「せやな。オトンにも、あんま酒飲まんように言うといてな」

 それからボクとキアは、卯月さんたちやキアの妹たちと別れ、ユミアのマンションに向かった。
やたらと豪勢なロビーで、ツインテール少女がとつぜん立ち止まる。

「先生、ちょっくら先行っといてんか」
「ん、どうしたんだ、キア。なにか用事か?」

「ここの決まりやねん。私物は一階のロッカーに預けとけって。まあスマホやノートパソコンなら、持ち込みOKなんやケド……」
 さすがに『巨大なカニ爪ギターは』は、マズいらしい。

 ボクは一人で、エレベーターに乗った。
扉が閉まる瞬間、一人の男の姿がエレベーター前面の透明ガラスに映る。

「やあ、久しぶりだね。授業は順調かい?」
 男は言った。

「はい。久慈樹社長。今のところ、大きな問題はありません」
 振り返ると、男は爽やかにほほ笑む。

「そうかい。だがね……『重要な問題』というのは、常に水面下で進行してしまうモノなんだ」

 反論する余地のない言葉だった。

「ボクの生徒たちに、お金が支払われているらしいですね」
「おや、もう気付いたのかい? 中々に優秀じゃないか……」

 ボクが、押し黙ったままでいると、久慈樹 瑞葉は深いため息をつく。

「それはそうだろう? うら若き少女たちの人生を、キミやユミアの茶番に付き合わせているんだからね」

 

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