透明化と水中呼吸
「当たり前ですよ。さっさとココを出ましょう。見つかったら、ただじゃ済みませんよ!」
蒼い髪の少年は、浴場に誰かが入ってこないかと気が気でない。
「……だろうな。何たって今回は、客人として『神澤・フォルス・レーマリア皇女殿下』まで招かれてるみてェだからな~♪」
「ええッ!? レーマリア皇女サマが、この街に来てるんですか?」
「ああ。レーマリア自らが、何でもオメーに会うために来てるって話だぜ?」
「ど、どど、どうしてボクなんかに?」
皇女が自分に会いたい理由が解らない。
「……って、今はそれどころじゃ無いですよ。皇女サマの入浴を覗いたりなんかしたら!?」
「まあ死刑はねえと思うが、去勢されちまうかもな? オレ、女になってて良かった~♪」
「ひいぃぃぃーーーー!? 良くない! ボクはどうなるんですかぁぁぁーーッ!?」
「バレなきゃいいんだよ。今回はカーデリアやリーセシルたちも呼ばれてるから、久しぶりにアイツらがどれだけ成長したのかも、拝んでやっかな~?」
「久しぶりって……ええッ!?」
「つっても、ガキの頃の話だケドなあ? カーデリアとは幼馴染みだし、リーセシルやリーフレアとは、アイツらがまだ修行中で『神殿』にいた頃に知り合ったからな」
「ボクも子供の頃は、パレアナと一緒にお風呂に入ってましたけど……」
「おッ、そのパレアナってコも呼ばれてるぜ。彼女の成長具合を確かめたいだろ?」
「そりゃあ、まあ……って、ダメですよ、そんなの! 殺されてしまいます!」
生真面目な蒼髪の少年に対し、赤毛の少女は大きな湯舟でバタ足をしながら挑発する。
「オメー『伝説の勇者』になりたくね~のか? 歴史に『名』を刻めるチャンスだぜ!」
「刻みたく・あ・り・ま・せ・ん! どんな意味の『伝説の勇者』なんですか!?」
そうこうしていると、浴場の脱衣所の辺りから少女たちの声が聞こえ始めた。
「きゃー、レーマリアってば、随分と成長したわね。まったく十五歳とは思えないわ!」
「あの、カーデリアさん、良いんですか? 皇女サマに対して……その」
「ああ、パレアナ。いいの、いいの! 皇女サマとは顔馴染みな仲だから」
可憐な声の中には、舞人にとって聞き覚えのあるモノも混じっていた
「そうですね。カーデリアさんは、姉みたいな感じです」
「そ、そうなんですか!?」
「『皇女』なんてホントは、重荷なだけなんですよ、パレアナ。お風呂の中くらいは、十五歳の普通の女の子でいさせて下さいね」
「……マ……ママ、マズイですよ、シャロリュークさん!?」
とてつもない窮地に追い込まれる、舞人。
「この浴場、脱衣所からでないと外に出られないじゃ無いですかぁ!」
「心配ね~って。『こんな時』のために用意周到、準備してんだ」
赤い髪の毛の中から、小瓶と小石を取り出す少女。
「『透明化ポーション』と、『水中呼吸』のエンチャントされた丸石だぜィ!」
「どんな時のために用意してたんですか! アナタ、ホントに英雄なんスか?」
「お、入ってくるぜ!!」
赤髪の少女は、舞人の言葉など完全に無視する。
「魔法だと、リーセシルたちに気付かれるからな~。さっさとポーションを呑んで、丸石を口にくわえな。五分は持つからよ」
「ええッ!? 五分しか持たないんですかぁ!」
舞人の頭から、血の気が引いて行く。
「五分で会議が終るワケ無いですよねえ?」
「ん、言われて見ればそっか? ……マズったな」
「どうするんスかぁーーーーーーーーーーーーッ!!?」
「しゃ~ない、オレのをやるよ。今のオレは女だし、まあ何とかなるだろ?」
舞人はシャロリュークからそれらを受け取ると、『透明化のポーション』をいっきに飲み干し、『丸石』を口にくわえて湯船に潜水を開始する。
……と同時に、脱衣所から少女たちが入って来た。
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