5光秒かなたの艦隊戦
「やれやれ……人類って生き物は、千年も経っても戦争をやっているんだな」
漫画やアニメで使い古された、お決まりの文句だ。
「他の動物さんたちは、戦争なんてしませんからね」
ウンウンと納得する、小動物みたいな雰囲気のセノン。
「まあ人類だけが、お互いの勢力争いを『戦争』って呼んでるに過ぎないケドね。他の動物だって縄張り争いはするし、同族同士で殺し合うこともあるさ」
『なるホド……おもしろい考え方をされますね、艦長は』
フォログラムの、ベルダンディは言った。
「でも、因果な話だな。イーリアス(古代ギリシャの叙事詩)じゃ、アキレウスとパトロクロスは親友同士なのに、この宙域じゃ戦争をやっているなんて」
『わたしには、人間が戦争をする意義は理解できません。現在の戦争の首謀者は、国ではなく巨大企業であり、双方の戦力は艦載機だけでなく戦艦も空母も無人なのです』
「無人機同士で戦ってるのか。それ、マジで戦争やる意味あるの!?」
『わたしには、理解できないと言ったばかりですが……』
「ああ、ゴメン。でもそれちょっと、オレにも解らない」
『現在も、戦闘が行われている模様です。映像を、ご覧になられますか?』
「時間の無駄な気もするが、今の時代の艦隊戦とやらを見ておくか……」
するとスクリーンに、巨大な戦艦や空母が航行している映像が映し出された。
『主に緑色の戦艦や空母が、小天体であるアキレウスが主星のグリーク・インフレイム陣営の戦力となります。艦載機の色は赤ですね』
「それじゃ、もう一方の蒼い戦艦や空母が、パトロクロスが主星のトロイア・クラッシックってワケか。こっちの艦載機の色は、黄色なんだ。しっかし相当ハデなカメラアングルで、撮影されてるな?」
『専用の撮影用無人機からの、映像です。戦っているのはどちらも、軍事産業が主体の企業ですので、顧客へのアピールも含めて撮影されております』
「兵器の、プロモーション映像ってワケか?」
『はい。彼らが製造する艦艇を入手したいと考えている顧客は、太陽系中におりますから』
「それも、歪(いびつ)な話だよな。それで戦争に巻き込まれでもしたら、どうする気だ」
「戦争になんか、巻き込まれたくはないですよ。おじいちゃん!」
栗色の髪の少女が言った。
「ちなみにこの戦闘空域と、この艦とはどれくらい離れてるんだ?」
『およそ、5光秒といったところでしょうか』
「……え?」
ベルダンディは、とても解りづらい表現を用いる。
「確か、一光秒が約30万キロメートルだから、5光秒だと大体150万キロメートルか。地球の感覚で言えば、月までの距離が38万キロだから、かなり離れているように思えるが?」
『実際に、なんの影響もないと言っていいくらいには、離れてます』
「ほらな。心配ないってさ、セノ……どうした?」
『世音(せのん)・エレノーリア・エストゥード』は、スクリーンを指さしていた。
「見てください、おじいちゃん。戦争……終わっちゃったみたいです」
「そんなハズ……?」
慌ててボクも、スクリーンを見上げる。
「ホ、ホントだ。両方の陣営の戦艦や空母が、砲撃を止めちまってるぜ!?」
「やられた艦載機も、プカプカ漂ってる……」
「まだ開戦して間もないってのに、どういうコト!?」
真央、ヴァルナ、ハウメアも、理解が追い付いていない様子だ。
「ねえパパ、見て見てェ!」
ボクの周りに集まってくる、六十人の娘たち。
「緑の戦艦も、蒼い戦艦も、一緒になって……」
「どっか行っちゃうよ?」
「……一体なにが起きてやがる!? 説明しろ、フォログラム!!」
プリズナーも、苛立ちをベルダンディへとぶつける。
『可能性として、考えられるのは……』
「戦艦や艦載機を制御しているコンピューターが……乗っ取られた?」
ボクの答えを聞いたフォログラムの少女は、コクリと頷いた。
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