メリー先生
「モノは試しだ。まずはレノン……どの辺りから解らないんだ?」
「どこって言われても……方程式くらいから?」
レノンは、天井を見上げながら言った。
「けっこう初歩だが、まあありがちではあるな。アリスはどこが解らない?」
「え、わたしですか!? ふ、不等式のらへんが解りません」
アリスはオドオドしながら、答える。
「それじゃあメリー。二人を同時に見るなど、キミには造作もないコトだろう?」
「先生、そうやって挑発すれば、わたしが従うとでも思っているのですか?」
少女は、アイボリーの髪を掻き揚げ、ボクを睨んでいる。
「もし、本気で先生が数学を教えたいのであれば、このクラスにはユークリッドの数学教師がいるではありませんか? ねえ、瀬堂 癒魅亜さん」
メリーが視線を送った先には、髪を本来の栗色に戻したユミアの姿があった。
「そうね。だったら、わたしの動画でも見たら。もっともわたしは、高校の数学担当だから、中学は別の動画になるケド」
ユミアはクラスメイトを、軽くあしらった。
「流石はユークリッドのアイドル教師。ずいぶんと余裕な態度ですね」
「当たり前よ。わたしは大学レベルまでの数学については、かなりのレベルでマスターしているわ」
彼女の言葉は、恐らくクラスメイトの多くから、反感を買っただろう。
「どうだ、レノン、アリス。やはり、ユミアの動画で、学んだ方が……」
ボクはユミアの助け舟を、有り難く使わせてもらうコトにした。
「そりゃそうだよな」「わたしも、そうします……」
「ふざけないで、くださるかしら? 自分が優れた教師だからと言ってって、人を見下すその態度……許せません」
「メリー、それお前のコトじゃん?」
「うるさい、バカライオン! わたしだって、落ちこぼれ二人くらいの面倒は見れます。それで、どこが解らないのです!!」
「え!? ……ええっと、全部」「全部ゥ!?」「そう、全部」
「いいですか、方程式っていうのは、aやb、xという不確定な数字を表す記号を使って……」
「なんで数学に、英語が出てくんだ? 数字と英語が並んでるなんて、おかしいじゃん?」
「もう、このポンコツ!! 使ってる英語は、どの数字が入るか解らないという意味です。また、その中身が何かを計算で導くのも、方程式の重要なポイントです」
「そうか。何となく、解ったような解らないような?」
「でも、何となくは解っただろう、レノン?」
ボクは、金髪のたてがみ少女に問いかける。
「うん……今までは、ぜんぜん解らなかったケド、少しだけ解った感じ!」
「まったく……それではアリスさん。あなたはどこが解らないのですか?」
「えっと、一次式は解るんだけど……」
「なる程、この辺は確かに、わたしも苦戦したわ。えっと、まずは……」
メリーは、レノンとアリスに数学を教え始めた。
「アリガトな、ユミア。キミに、悪役まで押し付けてしまって」
ボクは、ユミアの席の傍らに立って話しかけた。
「いいえ……それより先生は、彼女の性格を見越していたんですね?」
「メリーは、かなりの合理主義者みたいだからね。何かを解りやすく説明する能力が、抜きん出て高いんだ。それに彼女にとっても、復習(アウトプット)になるからね」
「先生って、やはり生易しいモノでは無いですね……」
瀬堂 癒魅亜は、顔を伏せる。
「レノンってコも、ユークリッドの動画を見てたでしょうに……」
過去の学校教育に問題があったように、ユークリッドによる動画教育にも問題がないワケでは無かった。
「仕方ないさ。動画は、一方通行。解らなくても、質問ができるワケじゃない。キミだって直接教えられれば、レノンも理解できたハズだろ?」
「違うのよ、先生……わたしは、誰も生徒がいない教室でないと、教えられないのよ……」
ユミアは言った。
それからボクは、白板を使って授業を続けた。
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