戦争ゲーム
ゲームの触れ込みの一つに、『決まったルートが無く何をしても自由』……というのがある。
二十一世紀に、冷凍カプセルで眠りについたボクは、太陽系というあまりに巨大なフィールドに放り出され、巨大宇宙艦の艦長まで就任してしまった。
はっきり言って、ボクはこの手のゲームは苦手である。
「さて、ベルダンディ。キミに質問だが、フォボスのプラント事故は、キミたちが引き起こしたモノで間違いはないんだな?」
ボクは、艦長の椅子の上のカプセルに向かって、語りかけた。
『はい。おおむね間違いではございません』
フォログラムに過ぎない、ベルが答える。
「オイ、なんだってそんなコトをしやがったんだ!? テメーらの目的はなんだ?」
プリズナーが、 声を荒げた。
『この艦に置ける地位は、わたしの方が上です。あなたの要求に答える義務はございません』
「やれやれ、ずいぶんな物言いじゃねえか? 勝手にオレらを拉致っといて、盗人猛々しいとは……ま、言えた義理じゃねーがよ」
「なあ、ベル。プリズナーの質問の答えを、ボクも聞きたい。あの事件は本当に、ボクだけが目的なのか? どうして、フォボス女学院の生徒にまで、手を出したんだ?」
ボクが質問すると、セノンや真央ら女学院の生徒たちが、いっせいにベルを見る。
「ボクの見解だが、フォボスの採掘プラントの社会見学なんてモノは、早々あるモノじゃ無いんじゃないのか? 彼女たちも、意図的に巻き込まれたと考えている」
『わたしたちは、時の魔女様の指示に従ったまでです。残念ですが、作戦の開始日時と、宇宙斗艦長の確保以外の指示は、受けておりません』
「てぇコトはだ。開始日時を設定した、その時の魔女ってェのはどこにいる?」
『存じません。わたしたちはただ、指示を受けそれを実行しているに過ぎません』
「おおかた、テメーの自演じゃねえのか? 運命の女神さんよ」
プリズナーにも、ベルダンディが運命の女神である知識はある様だった。
「えっと、おじいちゃん。わたしたちは帰してもらえるのでしょうか?」
栗毛のクワトロテールの女の子が、ボクに問いかける。
「そうだな、セノン。だがこっちは、事件を起こした側だ。強盗犯が人質を返したからと言って、すんなりコトが治まるだろうか?」
「そんな平和な世界がどこにある。ちったあ頭を使えよ」
「何か、いいアイデアでもあるのか、プリズナー?」
「格納庫に、あれだけ色んな宇宙艇が並んでいるんだ。一つくらい拝借して、火星の探知衛星の範囲外から、こいつらを乗っけて打ち出せば済むコトだぜ」
プリズナーとトゥランは、すでに格納庫にも侵入していたらしい。
「なる程、宇宙艇はプリズナーが操縦できるんだな?」
「自動操縦がぶっ壊れてなけりゃな」
「そっか。ちなみにだがベル。この艦の戦闘能力はどのくらいなんだ?」
『各企業や国家の軍事能力は、非公開の極秘事項ですので推測にはなりますが、現行の宇宙空母打撃群十二個艦隊と同等と言ったところでしょうか』
「ちなみに、空母打撃群一個艦隊の規模は?」
別にボクはミリタリーマニアでは無いが、アニメやゲームの知識から、それなりには知っていた。
『火星を代表する企業である、マルステクター社の第一艦隊ですと、大型宇宙空母三隻、中型空母六隻、小型空母兼強襲揚陸艦二十四隻、宇宙戦艦一隻、巡洋艦八隻、駆逐艦十六隻、ミサイル艇などの護衛艦を入れますと……』
「二十一世紀のアメリカ軍の一個艦隊を、大幅に上回る能力じゃないか!?」
『アステロイドベルトを始め宇宙には、無限に近い鉱石がありますからね』
「材料には事欠かない……って、コトか」
二十一世紀から千年が過ぎても、人類は戦争というゲームの魅力に、憑りつかれたままだった。
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