二組の双子
ボクの先生デビューは、微妙な空気感のもと終わった。
「果たして、彼女たちは納得してくれたのだろうか……」
自分の授業を終えると、生徒である少女たちの顔を見渡してみる。
「今日の授業は、これで終わりです。なにか解らないことがあれば、どんどん聞いてくれ」
けれども、生徒からの反応は無く、礼をした後にユミアに声をかける。
「ユミア、キミはどうする?」
「どうするとは?」
「彼女たちと共に、暮らしていけそうか?」
「べ、別に子供じゃないんだから、なんとかするわ。大体、超セレブマンションの最上階のフロアを一人で貸切るのが贅沢過ぎたのよ」
ボクの言葉に、ユミアの顔が一瞬だけ曇った。
「部屋の大きさの話をすればそうだろうが、心の問題があるからな。久慈樹 瑞葉は、ずいぶんと個性的な生徒を用意してくれたみたいだし」
豪放磊落(ごうほうらいらく)なレノン、気の小さなアリス、正義の剣を振りかざすライア、合理主義者のメリー……四人だけ挙げても、かなりの個性の持ち主たちだった。
「そうね、退屈しないで済みそうだわ」
久慈樹 瑞葉の名を出した途端、彼女は強がって見せる。
「しかし、いくら広くてもベッドは一つだけなんだろ? 女の子がソファーでゴロ寝とか……」
「させるワケ無いじゃない。付いてきて」
ユミアは、円筒形のマンションの中央部の、完全に丸い部屋へと案内する。
「おーい、みんな来てみてくれ。これからみんなが寝る部屋だってさ」
ボクは、始めて担任する生徒たちに声をかける。
「え、なになにィ?」「寝るお部屋……あるですか?」
ボクは生徒たちと共に、中央の部屋へと入った。
「スゲー、なにこの部屋!?」「真ん中に、太陽みたなランプがあるです」
アリスが言った通り、円形の部屋の中央には、オレンジ色に輝く太陽のようなオブジェの灯りがあり、その周りを取り囲むようにいくつものベッドが配置されていた。
「アイツ……久慈樹社長に、事前にベッドを十二個用意するように言われたのよ。最も、二つほど人数には足りないみたいだケド……」
確かに、名簿で確認したボクの生徒たちは十四人であり、ベッドはそれより少なかった。
「久慈樹はムカつくヤツだけど、仕事に関しては完璧のこなすのよ。人数を間違えるなんて、珍しいコトもあるようね」
すると、生徒の中から四人の少女が歩み出る。
「あの……ボクたち双子ですから、ベット二人で一つでいいですよ?」
彼女たちは、星のように明るい金髪の持ち主で、青い澄んだ瞳をしていた。
「キミたちは、白鷺 佳斗瑠(しらさぎ かとる)と、白鷺 琉倶栖(しらさぎ るくす)だね」
二人は、ショートヘアにヘアバンドをしていて、そこからかチェーンのアクセサリーを垂らしている。
「先生、どうして……」「わたしたちの名前を?」
二人の青空のような瞳に、ボクの顔が映る。
「ああ……実はボクは、一度ちゃんと見た文章は、それが難解な数式でもない限り記憶してしまうんだ」
「ええ!? ウソ、あの一瞬で!?」
「先生が名簿を見たのって、ほんの一瞬だったよね!?」
カトルとルクスは、そっくりな顔を見合わせる。
「なに、そのチートスキルわ!」
「ボクたち、英単語だって漢字だって、必死に暗記してんのに!」
「それ、友人にもよく言われたよ。でも、見たのは名前くらいだ。プライバシーに関する情報は、見てないから安心してくれ」
問題のチートスキルは便利でもあり、厄介な代物でもあった。
「それでは、わたくしたちの名前もご存じですの?」
「わたくしたちも、ベッドは一つで構いませんコトよ?」
クルクルと巻いた水色の髪に、桜色の瞳の双子少女が言った。
「安曇野 亜炉唖(あずみの あろあ)と、安曇野 画魯芽(あずみの えろめ)だよね?」
ボクの答えに二人の小柄なお嬢様は、ニコリとほほ笑んだ。
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