艦橋スタッフ
ボクは、自ら『MVSクロノ・カイロス』と名付けた、宇宙船の艦長となった。
「艦長のボクには、この艦のスタッフを任命する権利があるんだよね?」
『はい。現行のスタッフは、サポートスタッフであるわたし……ノルニールと、艦長の遺伝上の娘たち六十名になります。彼女たちは、戦闘スタッフですね』
「そうだよ、戦闘なら任せて!」「どんな敵だって、へっちゃらだよ!」
「パパに立てつくヤツはやっつけちゃうんだから!」「安心してね」
娘たちは相変わらず無邪気に、ボクに纏わりつく。
「そう言えばノルニールは、ベルダンディの姿以外にもなれるんだろ?」
『わたしは、見た者が見たい様に見える存在。いかなる姿であろうと、なることは可能でしょう。今は、艦長の付けた名前に従い、ノルニル三女神の一人である、ベルダンディの姿でいるのです』
「それじゃあスタッフなんだケド、セノンや真央たちも可能なのか?」
『彼女たちは、コミュニケーション・リングによって記憶を操作できます。可能でしょう』
「どうやら未来に置ける人権は、二十一世紀とはかなり異なるんだな?」
『いいえ。多くの企業や国家では、人の記憶を勝手に書き換えるコトは、認められてはおりません』
「オイオイ!? だったらキミらがやってるコトは、法律に反するコトじゃないのか?」
『この艦は、どの企業にも、どの国家にも所属いたしません』
「まるで、海賊船みたいな言い草だな。だったら、この艦の法はどうなってるんだ?」
『以前にも申し上げた通り、艦長がこの艦の法です。殺生与奪の権利も、全て艦長に一任されます』
フォログラムのベルは、とんでもない常識の持ち主だった。
「誰かを殺す気なんて無いよ。とりあえずオペレーターとして、セノン、真央、ヴァルナ、ハウメアの四人を招集したいんだケド?」
ボクは、ベルダンディの反応を探った。
『了解いたしました、艦長。世音・エレノーリア・エストゥード、真央=ケイトハルト・マッケンジー、ヴァルナ・アパーム・ナパート、ハウメア・カナロアアクアの四名を、艦のオペレーターとして登用いたします』
「それから、艦内の警備スタッフとして、プリズナーとトゥランを採用したいんだが?」
ボクは、一か八か二人の名前を出す。
『艦長。プリズナーに関しては、本名ではございません。特殊なコミュニケーション・リングの形状を見るに、刑務所に服役している人物のようですが?』
やはりベルは、プリズナーのコトも把握していた。
「そうか。だが問題ない。すぐにブリッジに呼んでくれ」
『了解です。艦長』
ベルが了承をしてから五分後には、全員が艦橋に顔を揃えていた。
「おじいちゃん。オペレータースタッフ全員、揃いました」
少しは引き締まった表情のセノンが、言った。
『おじいちゃんでは、ありません。この艦・MVSクロノ・カイロスの艦長です』
「いや、いいんだ。セノンから艦長って呼ばれるのも、何か違うかなって」
『そうですか、了解いたしました』
「おい、お前。こりゃ一体、どうなってやがる!?」
プリズナーが、ボクを睨んだ。
「成り行きでね。この艦……MVSクロノ・カイロスの艦長を引き受けるコトになった」
「なんだ、そりゃ? だが艦長ってんならさっさと、オレやクーヴァルヴァリアを、フォボスに返せってんだ!」
『私語を慎みなさい、プリズナー。あなたには発言も要望も、認めてはおりません』
「なんだぁ、この女は!?」
ケンカ腰のプリズナーは、拳を身構える。
「プリズナー、相手はフォログラムです。物理攻撃など無意味ですよ」
プリズナーの背後に控えていた、トゥランが言った。
アーキテクターである彼女は、ブリッジでは本来の機械の体に戻っている。
「なにィ!? まったく、ワケが解らんぜ!」
拳を納めるプリズナー。
「ヤレヤレ……巨大宇宙船に、個性的なスタッフ。これでボクに、何をしろって言うんだ?」
ボクは目の前に広がる、深淵の宇宙に向かって投げかけた。
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