ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第02章・06話

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巨大岩石群

 ボクと黒乃が眠りに付いたのは、地球の小さな街の廃坑だった。

 それがどうしてフォボスに居るのか、ボクにもさっぱり解らない。
当然、今居る場所に付いても、何も知らない。

「フォボスが、『恐慌』って意味の神の名前なんて、笑えない冗談だな……」
(願望とは裏腹に、今の状況を打開し彼女を救う術を見つけられないボク)

「こ、こんな場所で死んじゃうなんて、絶対に嫌ですゥ~!」オロオロする、セノン。
 ボクは宇宙服の胸に手を入れ、三つになった髪飾りを握り締める。
「……こんな時、キミならどうする?」灰となって散った時澤 黒乃を思い、勇気を奮い立たせた。

「ねえ、セノン。この宇宙服って、スラスター付いてるよね?」
 彼女から受け取って、身に付けた宇宙服を全身一通り見回した。
「はい……姿勢制御用のなら、付いてますケド」「やっぱ、これが、スラスターなんだな」

「おじいちゃんのは、わたしと一緒に上から落っこちてきた、『掘削プラントの保安員』の宇宙服です。わたしの宇宙服のよりも、そっちのが高出力なハズですよ?」
 ボクは右腕のパネルやら、腰に付いているダイヤルやらを弄って、機能の把握に務める。

「この宇宙服、ボクのはヘルメットは無いみたいだ」「わたしは、簡易型ですが、あります」
「じゃあ、着けちゃって。女の子の顔に、傷でも付いたら大変だから……さ」「ハイです!」
 セノンの背中に折りたたまれていた、ヘルメットが展開し、彼女の長いクワトロテールを包み込む。

「おじいちゃん……一体、何する気なの?」「……こうするのさ」ボクは、セノンを持ち上げた。
「きゃああ! な、なな……何でいきなり、お姫様抱っこするんですかあ!?!」

 『世音(せのん)・エレノーリア・エストゥード』の体は、フォボスの低重力下にあってはワタ飴みたいに軽く、貧相なボクでもファンタジー物語のナイトの如く、彼女を抱えられた。

「大丈夫だよ……セノン。アレに向って……跳ぶよ!!」
「跳ぶって……あの大っきな、岩の群れに向ってですかぁ!?」
 ボクは地面を蹴り上げ、スラスターのスイッチを入れた。

「何考えてるんですかぁ!? 死んじゃう!! 死んじゃいますゥ~~!!?」
 姿勢制御用のスラスターでも、世音を抱えたボクを何とか上へと押し上げる。
「うええェ~ん! ……まだ死にたくない~!! いやぁ~~ッ!?」

 悲鳴を上げる、栗色の髪の少女。
「ボクはもう、二度と……キミを失わない!」ボクは、決心した。

 天高く続く縦穴を、スラスターをフルに噴射させて昇って行くと、やがて巨岩の大群に出くわす。
「きゃああぁあぁぁぁーーッ!!? いっやああああぁぁぁぁーーーーーーッ!!?」
「大丈夫……巨石と言っても、これだけ遅ければ、間をすり抜けて飛ぶことが出来るよ」

 ボクは『ゲームで培った経験』を元に、姿勢制御バーニアを駆使してこまめに方向を変えながら、『ゆっくりと落ちる巨石の大群』をやり過ごすことに成功する。
「凄い……ホントにすり抜けられちゃった。で、でも、わたしが落ちて来た採掘プラントの床は、もっと上なんです。そこまで、スラスターが持つかどうか……」

「心配ないよ……セノン。これを利用する……」「え? ……利用するって……何を!?」
 下の方で、巨石が次々に地面と接触し、轟音が鳴り響いたかと思うと、衝撃波が急激に昇って来た。
「……この衝撃波に乗って、キミのいた採掘プラントまで上昇するんだ」「えええッ!!?」

 予想通り衝撃波が、ボクたち二人を軽々と、採掘プラントのある『上空』へと押し上げる。
「凄い……やっぱ宇宙斗おじいちゃん、凄いですゥ~!」
 セノンはボクの顔に、ヘルメット越しに頬を摺り寄せ、じゃれ付いて来た。

「こ、こら……止めろって。くすぐったいだろ?」
 衝撃波で舞い踊る、宇宙服の保護シートで覆われたクワトロテール。

「黒……乃……」
 フォボスの穴の底で、巨石に押し潰されてしまったであろう、二つの『冷凍睡眠カプセル』を想う。

 その片方は、『時澤 黒乃』を未来に導けなかった時点で、意味を成さない存在だったが、カプセルは彼女との『絆』であり『共有できた思い出』の様にも感じられた。

「ありがとう……黒乃。千年もの『引き篭もり生活』へと、ボクを誘ってくれて……」
 ボクとセノンは、そのまま地面に開いた穴を抜け、衝撃波に身を任せ、プラント上空に舞い降りた。

「おじいちゃん! 戻って来れましたぁ! 採掘プラントですよォ!」
 無邪気にはしゃぐ、セノン。

「キミが、『自分の存在』を刻みたいと思った『未来の科学』……ボクが代わりに、この手で……この眼で必ず、見届けてやる……」

 ~一千年間の引き篭もり生活は、ボクを少しだけ男らしくしたのかも知れない~

 

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