人間になりたい
「こ、これは『ルーシェリア大魔王殿下』ではありませんかぁ~!」
土下座をした、富の魔王『マモン・アマイモン・マンモーン』は、双頭の鳥の頭だけ上げる。
「そのようなお姿なので、気付きませんでしたぁッ!!! 」
「フム。話せば長くなるが、実はのォ……」ルーシェリアは、表情を歪めた。
「そこの少年に『人間の姿』に変えられてしもうてのォ。ホトホト困っておるのじゃ」
「おい、ルーシェリア。そんな言い方をしたら、角が立つっていうか……魔王に角が立つって言うのも、ヘンな話だケド」
「偉大なる『ルーシェリア・アルバ・サタナーティア』様ともあろうお方が、脆弱な人間などに……群れねば何もできない人間ごときに、身をやつされるとわああぁぁああッ!!?」
双頭の鳥の魔王は、血相と言うものがあるなら血相を変えるくらいに激高する。
「やはり、所詮は魔王か」雪影は、再び白と黒の二本の剣にてをかけた。
「……な……ななな……なあぁぁーーーーーーーんと……うらやましい!」
『マモン・アマイモン・マンモーン』の意外な台詞に、『暗黒の大魔王』は唖然とする。
「なッ、何が羨ましいものか!!!」ルーシェリアは、地団駄を踏んで怒りを露にした。
「妾は情けなくも、『非力なる人間の少女』の姿に、されてしまったのじゃぞ!」
主に対する自らの失言に、魔王・マモンは言い訳を始める。
「……い、いえ……。わたくしめは『富の魔王』なのでぇ~す! ……故に、金に汚く富を独占する『強欲で傲慢な人間』と言うモノに、昔から興味がございまして……」
「なんじゃ? お主、人間になりたかったと申すのか?」
「ハイィ~。一度、『人間』というモノになってみたいと、常々思っておりましたぁ!!」
ルーシェリアは呆れた表情を浮かべ、舞人の方をチラリと見た。
「のォ、ご主人サマよ……こやつはこう申しておるぞ? 一つ、願いを叶えてやってはどうじゃ?」
「えええッ!!?」「妾やそこの邪神どもを、こんな姿にしたようにのォ?」
思わぬ展開を見せる『富の魔王』と、自称・魔王である『漆黒の髪の少女』との会話。
「……一体、この娘は何者なのだ? この十四歳くらいにしか見えない少女が、まさか本当に『暗黒と冥府の大魔王』だとでも言うのか?」
雪影はただ呆然と、事の成り行きを見ているより他に無かった。
「……あの、ひょっとしてルーシェリア様は、人間になる方法をご存知で?」
巨大な体躯の魔王は、猫背になって揉み手で、ルーシェリアに伺いを立てる。
「ご存じじゃとも。もはや完璧に、熟知しておるわ!」
彼女の言葉には、たっぷりと皮肉が混じっていた。
「で、でしたら、リクエストがあるのですが……」
『マモン・アマイモン・マンモーン』は、巨大な体躯を折り曲げて少女に媚を売る。
「なんじゃ? 申してみよ?」「実はわたくし、頭が二つありまして、腕も四本生えております。その~出来れば~? 二つに分けていただくことは、可能……かな~と?」
「可能じゃ……実例がそこにおるわ」
ルーシェリアが後ろを指差すと、ネリーニャとルビーニャの双子姉妹が、ギロッと睨んでいた。
「ま、まさか……キサマ等は、死霊の王『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』ですか!!?」
『富の魔王』は、白い短髪にオレンジ色の瞳、褐色の肌をした双子姉妹に問いかける。
「確かに我らが……『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』だ」
「そこの人間に、こんな姿にされてしまったがな」
双子姉妹は声を揃え、胸を張って言い放つ。
「人の子よ。お前は魔王を、人間にできるのか?」二つの鳥の頭が、同時に喋り始めた。
「えっと、出来ると思うよ。ボクの能力じゃなくて、この剣の力だけどね」
富の魔王は、舞人の手にした『おかしなパーツがゴテゴテ付いた剣』に目を落とす。
「そこの邪神どもまで人間にしておいて、このマモンだけせぬのはどうかと思うぞ?」
「好き好んで、こんな姿になったワケでは無い!」「人間になりたい魔王など、聞いたことも無いわ」
ネリーニャとルビーニャも、マモンの考えは理解できなかった。
「ホ、ホントにいいの?」「構わん、二等分で頼んだぞ!」
「了解。あまり増えられるのも困るから、貫く感じで行くよ?」
少年はヤレヤレといった表情で、背中の剣に手をかけた。
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