ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第01章・06話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

五種類のアイス

 ボクは彼女が、下着は身に付きけているのを後ろ目に確認する。

 すると、ボクの手の上に黒乃の華奢な手が重ねられ、装置のスイッチが押された。
「装置が……起動した……?」

 カプセルは異音を立てながら輝きを放ち始め、辺りの岩盤を明るく照らし出す。
漆黒の洞窟の中で光輝くそれは、神々しささえ感じられた。

 「一体何の装置なんだ? 単なるお洒落な灯り……ってワケでも無さそうだケド」
 ボクが言葉を濁すと、時澤 黒乃はボクの背後からカプセルの前に向かって、ゆっくり歩き出す。
スレンダーな身体は、純白の下着によってかろうじて、胸とお尻だけが隠されていた。

 「何をふざけているのかしら? さっきも確認したように、宇宙斗はこれが何なのか、とっくに『理解』しているでしょう?」
 純白の下着には、意外にも少女趣味なフリルの付いた花柄が刺繍されている。

 カプセルからのアップライトを浴びる彼女の容姿に、ボクは思わず見とれてしまった。
「ああ……キミの言う通りさ。ボクには見た瞬間から、これが何の装置か解っていた」
 彼女の茶色い瞳はただジッと、ボクだけを映していた。

「これは……『冷凍睡眠カプセル』なんだろう?」

 黒乃は小さく頷いた。
「でも、現実として認めたくなかったってのが本音さ」
 何故ならボクは、カプセルが何を目的に造られたのかさえも理解出来ていたからだ。

「この装置を見た時、キミが言っていた意味が理解出来たよ。『引き篭もるのに適した場所』ってのは、『山奥の安定した地盤に設置された、このカプセル装置』だったんだね」

「そうよ」
 そっけない返事の後、彼女は片方のカプセルの透明な蓋の上に、脚をクロスさせて座った。
綺麗に伸びた足先には、ソックスの締め付けから解放された可愛らしい指が、チョロチョロと動く。

 街を出る時に買った、アイスクリームの箱を手に、黒乃は説明を始める。
「このカプセルは、二十一世紀に入って急速に進歩した冷凍技術を駆使して、私が開発したモノよ。人間なんてのは言ってみれば『肉の塊』なの……わかるでしょ?」

 彼女は箱のふたを開けると、中からドライアイスの冷気が溢れ出す。
「オレンジキャンディ、ピンクマシュマロ、チョコナッツ、マスカットゼリー、ソーダミント……あなたの好みが解らなかったから、目に付いたのを買ってみたわ」

 黒乃が手にした箱の中には、初夏の山道を歩き、坑道を長々と降って来たと言うのに、買った時の冷たいままのアイスクリームが並んでいた。
「……ああ……」ボクは彼女の言葉を『理解出来てしまった』のだ。

「冷凍に置いて最も危険な温度帯。肉や魚の細胞内部の水分が凍って、氷の粒が大きく成長し、細胞自体を破壊してしまう『魔の温度帯』がある……」「ええ……そうよ」
 彼女は、満足気に微笑む。

「どれが好みかしら」「そうだな……全部、食べてみたくはある」
「欲張りね……ホラ、口を開けなさい」
 時澤 黒乃は、親鳥のようにアイスクリームをすくって、ヒナ鳥のボクの口に運んだ。

「……肉の細胞が破壊されるってコトは、人間に置き換えれば、筋肉や脳の細胞を破壊してしまう……」
 彼女は、ボクの口に入れたスプーンを引っこ抜くと、ボクが食べたのと同じアイスを食べた。
「うん、悪くない味ね……正解だわ」黒乃は、二つ目のアイスをすくう。

「けれども、魔の温度帯を回避する冷凍技術が、二十一世紀の現在には存在する。急速に凍らせ、魔の温度帯を一瞬で潜り抜けるコトによって、氷の粒の巨大化を回避し……」
 黒乃は、二つ目のアイスを、ボクの口へと放り込んだ。

「そう、それが『急速冷凍』よ」
 時澤 黒乃は、ボクの口から引き抜いたスプーンで、同じアイスを頬張った。
「このアイスも美味しい。適当に選んだ割にはイケるわね。あなたももっと食べる?」

 ボクは、無邪気にアイスを食べる気にはなれなかった。

 

次回・永い永い引き籠り

一千年間引き篭もり男・第01章・07話 - ラノベブログDA王