人体実験
気の強そうな瞳をした、クワトロテールの少女が立っていた。
少女は頬を少し赤らめて、ボクを見つめている。
「そう……ですか。でも今は、やらなければならないコトがあるわ」
ボクから顔を背けて銃を乱射する、黒乃。
彼女の言う通り、周囲にはまだ倒さなければならないアーキテクターが、大勢残っていた。
「了解だ、黒乃。まずは、サブスタンサーを取り戻そう!」
ボクも彼女とは別方向の敵を、銃で一層する。
「まさか、ミネルヴァ様も脱獄されていたとは、驚きですぜ」
黒人の大男が言った。
「いえ。宇宙斗が動き出すタイミングを見計らって、こちらも行動を起こしたのです」
「黒乃は、ボクがここから脱獄するなんて、思ってたの?」
「今、そうしてるじゃありませんか」
「それは……そうなんだケドさ」
自分の行動と言うより、ギムレットさんがさっさと脱獄を始めてしまったと言うのが、正しい。
自分から行動を起こせたワケじゃない現実に、少しだけ後ろめたさを感じるボク。
「ギムレットさんは、ミネルヴァさんの協力者だったのですか?」
「まあな。本来なら、もっと穏やかな方法で落ち合う予定だったんだが……」
「すみません。ボクが、ゲーに対して向きになったばかりに、こんなコトになってしまって」
「軽々しく、謝らないでと言ったばかりよ。それより、急ぎましょう」
3人パーティーとなったボクたちは、女性囚人棟から引き返して中央制御センターに戻った。
「ヤレヤレ、エレベーターのシステムは生きていてくれて、助かったぜ」
「派手に、ブチ抜いちゃいましたからね」
ボクたちの収容されていた牢は、建物の最上階付近だったらしく、中央制御センターの背後の壁に設置されていたエレベーターを使って、下層まで降りる。
「扉を開けた途端、ハチの巣ってコトも考えられるぜ。ゴンドラの天井に乗って、別ルートから脱出だ」
ギムレットさんが手を伸ばすと、容易に天井のハッチまで手が届いた。
ボクたちも、初老の黒人の手を借りて、ゴンドラの上へと昇る。
それからダクトを使って、2階の1室に降り立った。
部屋は広々としていて、黒乃が創った冷凍睡眠カプセルのような装置が、縦置きで大量に並んでいる。
「ここにも、アーキテクターが!」
「待って。そのアーキテクターたちは、戦闘用ではないわ」
ボクが銃を構えようとすると、黒乃が前に立った。
「戦闘用でなくても、ボクたちがここに居るコトを、伝えられるんじゃ?」
「ま、そう慌てなさんな。コイツらは、人類の生命線なんだ」
ギムレットさんが、カプセルを見上げながら答える。
「これって……人間の子供?」
カプセルの中に入っていたのは、赤子から10歳くらいの見た目の、人間の子供たちだった。
「部屋に居るアーキテクターたちは、彼らの生命の存続に、無くてなならない存在なのです」
クワトロテールの少女は、アーキテクターたちへと近づいて行く。
ブリキの兵隊たちとは異なるデザインのアーキテクターたちも、黒乃に危害を加える様子はない。
「一体ここは、なんの部屋なんだ?」
そう言いつつも、何となくの予想は出来た。
「汚染されてしまった地球に、適合する人類を生み出すための研究機関よ」
黒乃のクワトロテールが、開けっ放しの排気ダクトからの風で揺らめく。
「適合って……この汚れ切った地球に?」
外では恐らく、黒い雨が大地を汚し続けているのだろう。
「最初はここも、宇宙を旅する上での宇宙線の研究をする施設だったんだがね。皮肉なコトに、今や宇宙よりも分厚い温暖化ガスに覆われた地球の大気圏の方が、放射能汚染が進んじまってんだ」
「多くの人体実験が、行われたわ。人工子宮によって生みだされた、子供たちを実験材料にしてね」
黒乃はカプセルの間を、沈んだ顔をしながら歩く。
カプセルの中には、奇形な子供たちも大勢混じっていた。
「ど、どうして人間は、そんなコトを……?」
「全ては、『純血種(ピュア・ブラッド)を、残すためよ……』
クワトロテールの少女は、哀しい瞳をボクに向けた。
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